ニコニコ学会βで著者の名前を見たことがあったので、読んでみようかと思い立ちました。
読みものとして面白いので、広い層におすすめできます。また、卒業後のポスドク(ポストドクター)の研究・就職事情の空気感が生々しくわかるので、研究者・博士課程進学を目指す人やその家族含め関係者にはぜひ一度読んでいただきたい。 オススメというより推奨。
内容は、バッタの研究者として生きていきたい(生計を立てたい)著者が、研究と生活をかけて研究成果(論文)を質量共に沢山書くため単身アフリカの砂漠(モーリタニア)に向かった体験記(冒険記)。
まず最初から「子供の頃からの夢は、バッタに食べられること」といってくれます。研究対象がこれくらい好きでないと研究者は務まらないのかも…と思わせる著者のバッタ愛は全編通してひしひしと感じました。 バッタに食べられるための著者の写真はなかなかの味わい。
研究内容だけでなく、それ以外の、研究者本人の生活事情が詳しく語られているところが、本書の特徴です。
研究ものの本は、研究内容は詳しく書かれていても、研究者本人の生活に触れたものは意外と少ないという印象です。(「ご冗談でしょう、ファインマンさん」なんかは貴重な例外ですが、あれも生活というよりは人格とかおもしろエピソードに分類されるかと)
おそらく、本書のような研究ものの著者は、通常は研究者としての生業が成立している人であること、そういった著者は自分の生活を赤裸々に語りたがる傾向にはないことがあるのでしょう。それを踏まえて考えると、やはり本書の研究者の生活事情=研究者の就職事情(無収入になる可能性)が赤裸々に綴られているというのは、なかなか貴重だと思います。
あとは、研究者として職を得るため、ブログを立ち上げたり、ニコニコ学会に出たり、そこから雑誌連載をしたりなど、著者がセルフブランディング活動をしているのが、2010年代ならではだと思います。
本書内の「ファーブルのすごさは研究を続けながら生活をしていたところ」という一節が染み入ります。著者の本書内での苦闘ぶりを読んできたあとだと、しみじみと「ほんとうにそうだよねぇ…」と共感したくなりました。
著者の就職事情だけではなく、バッタを追ってのモーリタニアの生活っぷりもなかなか破天荒で楽しいです。
本書を読んで思い出したのは、『ペンギンが教えてくれた 物理のはなし』の中にあった「研究者は現代の冒険者」という一節。本書の著者もまさに砂漠(バッタ)の冒険者ですね。