2018年8月前半の読了本リスト

8月前半は、読みやすいけどずっしり来る、けっこうな読み応えの本が続きました。

『医療現場の行動経済学』  大竹文雄、平井啓
『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』 スコット・ギャロウェイ
『失敗の科学』 マシュー・サイド
『みんなの家事日記』 みんなの日記編集部
『働く女子のキャリア格差』 国保祥子
『ロード・エルメロイII世の事件簿 8 case.冠位決議(上) 』 三田誠

 

著者買いかつジャンル買いの一冊。行動経済学、結構好きなんです。(カーネマン&トヴェルルスキー、リチャード・セイラーあたりの第一世代が書いた、一般向けの本ではまりました)。
さて、人間の意思決定が絡むことであればなんであれ応用の可能性がある行動経済学ですが、その知見を日本での医療分野でどう応用できるか、ということが語られています。
医療分野という、決定が人の生命に大きく関わり、かつ従事者(医者)が特別視される分野。本書のタイトルですでに、非常に大きな影響があることを予想しましたが、その通りでした。

医学シンポジウムでの講演内容が主になっているため、医療分野の専門用語も多く飛び交いますが、きちんと説明をしてくれているため、迷子になることはありません。
むしろ、医療の分野で交わされている議論の生々しさのようなものが迫ってくる感じがしました。いろいろと例はあるのですが、ひとつ挙げますと、子宮頸がんのHPVワクチンの接種率向上(「一万個の子宮」などで最近大きく取り扱われるようにもなりました)のための施策が語られていますが、その前提知識(医師にとっては確認)として語られている、罹患時の経過やリスクが統計的に語られる部分。そこで語られる事実(症例を統計的に捉えたもの)のリスクの高さに背筋が寒くなる思いがしました。医師は知っているけれども、社会全体には必ずしも共有されていない事実なので(それこそ、「一万個の子宮」などでは記載されているのでしょうが未読なので…)

さて、とはいえ主題は行動経済学を医療現場でどう活用するか。行動経済学についてもきちんと解説を入れて(実際に医師向けの内容なので、行動経済学に関する知識が全くなくても問題ないように解説が入っています)、さまざまなケースが語られます。

本書は、行動経済学が実際に世の中にどう応用されて役に立つのか、という問いに対し、日本にいる人にはすごく身近に感じられる実例を提供しています。
医療現場とはすなわち、病院に行ったときの患者本人(だけでなく家族なども含む)体験の現場です。ですから、本書で取り上げられているケースは、医師だけではなく患者の立場に立つ私たちに取っても、想像がつきやすいのでしょう。
つまり、医師だけではなく、それ以外の圧倒的多数である、いつか自分や家族が病気や怪我になりそして死ぬ普通のひとである私たちにとっても、本書の内容は大変示唆に富む重要なものです。
いつか私たちは病気か怪我でそのほか何らかの要因で、自分やあるいは近しい人が病院で死ぬのがほとんどなのですから。その際に、起こりうるすれ違いを少しでも小さくするためにも、つまり自分自身のためにも、ぜひ本書をお勧めします。

 

日経でも取り上げられていましたし、著者のTEDを見て面白そうだなと思ったので購入。
アメリカ人著者の書くこの手の本の例に漏れず、やはり本書もかなり長いので、なるべく短い時間でまず内容をつかんでしまいたい方にはTED動画もおすすめです(動画も20分くらいと長めなんですが…)
四騎士とは、Google、amazon、Facebook、Appleの4社のこと。この4社が他の会社と比べていかに異なっているのか、この4社に今の世界が作り替えられているのかが語られます。
四騎士はそれぞれ、脳、腕、心、性器という人体の要所(心は臓器ではありませんが、人間には欠かせないものとして)を押さえている。それが、今までの同業他社とは異なるストーリーのもとに、どのようになされており、どのような成果を挙げ、同時にどのようなマイナス面を止まっているのか。それが十二分に語られます。
著者の語る内容は厳しいまでの事実ですが、同時にその語り口は皮肉たっぷりで痛快ささえ覚えるので、読後は重たくありません。(でも事実としては重いのですが…)
「Googleは現代社会における神である。私たちは皆、視線をスマートフォンに落とし下を向いて祈りを捧げ、自分たちの問いかけに答えを得ている」 などと語られるとその通り!という感覚と皮肉に思わずにやにやしてしまいました。

 

私たちは失敗をどうとらえればよいのか?失敗から学ぶためには、どんな手法をとるべきなのか。それをまさに科学的に考えようとしたのが本書です。
本書では、失敗から学習するシステムのできあがっている組織の代表として航空業界を、失敗から学習できないシステムの内包された組織として医療業界を挙げています。
「医療現場の行動経済学」と併せて、医療の技術が大変な進歩を遂げた現代では、今後改善が求められる(そして可能な)のは、人間のオペレーションなのではないかと思いました。

個人単位でミスを減らすにはどうするればいいか工夫するのもひとつの知恵。
一方で組織(多人数)で失敗をどうとらえるかというのは、つまり、社会全体で失敗をどう役立てていけばいいのか、ということ。失敗という資源をうまく生かす方法を考えると同時に、組織内の失敗の責任を個人のみに帰さないよう考えることが、人道的にではなく功利的にもいかに大切なのか。それが本書の様々な例で実感されます。

 

『じっくり読みこんでいただくのはもちろん、パラパラめくって、自分に合いそうな
やり方だけをつまみ食いするのもおすすめします。家事のモチベーションアップと
マンネリ打開に効く一冊です。』という説明書き通り。
見開き2ページ~4ページごとにひとり、各家事のポイントなどを紹介しています。インスタグラムにインタビューと説明をつけたもの、いろんなひとの紹介ブログ、雑誌の特集号をもっと煮詰めた感じ。私にはちょっと合いませんでしたが、このスタイルが好きな方にはきっとたまらないんだと思います。

 

今現在、女性が働くこと、働きながら育児をすると何が起こるのか。そこには、意図せぬすれ違いがあり、様々な不利益もあり、それらをなんとかしようとしている著者のような人たちがいる。まさに現状を知らしめる本でした。
もちろん働く女性といっても、個々人の事情は様々です。でも全体の傾向として、働く女性だけでなく、女性と一緒に働いている男性にも、就労していない女性にも、現状をわかってもらうものとして意義があると思います。

 

はい、シリーズ新刊が出ると買ってしまうシリーズです。
著者がひとまず本書とその続きで一段落させる、と語っている通り、大団円に向けて今までのさまざまな出来事や登場人物がぎゅーっと詰まってきて面白くないわけがないです。
本シリーズお好きな方は、ぜひぜひ上下巻出揃うなんてもったいないことはせず、早めに手に取って本巻の最後を読んでいただき、次巻が発売されるまでその内容に思いをはせると楽しいですよ、きっと。
あと、本書のcase名、冠位決議にはふりがなできちんと「グランドオーダー」と記載されております。なんですかねぇ、なにか携帯ゲームの方とつなげてきたりするんでしょうか(やってないんですが)実に意味深な感じもしつつ、なにもない可能性もあって楽しみです。

2018年7月前半の読了本リスト

7月前半は、割と多様性に富んだラインナップでございました。

『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』 橘玲
『アウトライン・プロセッシングLIFE』 Tak.
『血界戦線 ペーパームーン』  秋田禎信
『世界史を大きく動かした植物』 稲垣栄洋
『宝石 欲望と錯覚の世界史』  エイジャー・レイデン

 

著者買いの1冊。タイトルはマーケティング戦略(と朝日新聞出版の自戒?)も含めて、センセーショナルにつけられておりますが、いつもの著者の本と同じく、とても明確で冷静な論理でつづられた本です。
サブタイトルまでが本書の内容を表しています。日本で「朝日ぎらい」という現象が起こっている理由を、日本におけるリベラルの歴史をひもとき位置づけを明らかにしています。それから、欧米でリベラルがグローバリズムと結びついてどのように進化しているかを説明しています。

正直言って政治にはあまり明るくなく、右派・左派の区別がよくわかっておりませんでした。誰がそう言われているのかは、新聞ほかメディアでわかるものの、どの特徴を捉えて右・左、リベラルと呼ばれているのか、支持者層はどのような層なのかがよくわからなかったのです。本書は、私のような「よくわかっていない」者に対して、論理的に説明をしてくれます。そしてさらに「ネット右翼」などまさに今台頭してきている層とそれらの結びつきについてもわかりやすく説明をしてくれました。
ただ、本書が本当に正しいのかについては、他著者などを見て自分で検証していかなければならないところなのでしょうが…。ひとまずは「なんか明確な説明もないし、よくわからない」から「本書の論理だとこうなっているけど、本当にそうなのかな」というところまではレベルアップできました。

 

アウトライナーの第一人者である著者の、2冊目のアウトライナー本。
アウトライナーを生活に役立てていく具体例とか、著者はなにをどう考え、どんなことについてアウトライナーを使っているのかという話です。技術論の範疇には収まらない、だけれども実際にアウトライナーを使い出すと気になることについて、第一人者である著者はどうしているのかをちょっとお話をお伺いしてきた、そんな感じの読了感でした。
すごく「それそれ!」と思ったのが、

ーせっかく検討したカテゴリーを消してしまうのは、「考える」アウトラインと「使う」アウトラインは違うからです。 実際の生活の中でDOを整理するときに、適切なカテゴリーを探すことが負担になることが経験的にわかっているからです。階層はできるだけ深くしない方が自由度が上がりますー

というところです。頭出しをして考える時点では、なるべく細かく区分けをしておくと、漏れダブりのないMECEな考えに近づけるんですが、実際になにかやる段になると、階層が深すぎると逆にうっとおしく感じる。それは私にも覚えがあったのでちょっと興奮しました。

 

コミックスの血界戦線を読んでいるので、その流れで購入しました。小説版著者の秋田禎信さんの著作は、とても昔に「魔術師オーフェン」シリーズを読んで以来でした。
主人公は表紙の通りザップ。コミックスのキャラクターとか雰囲気が見事に小説になっていますので、コミックスが好きな方にはおすすめですねー。

 

コメ、コムギ、トウモロコシ、ジャガイモ、トマト…。日本でならほとんどの人が知っているし普段なにげなく食べている植物は、どんな歴史を持っているのか。人間がよく知っており食べている植物は、人類史に大きく影響を与えてきた植物でもあった。
そんな壮大な植物たちのエピソードを、平易で軽快につづっている本です。時期が時期だけに夏休みに1冊おすすめしたくなるような本。個人的には、アメリカの食事になにかというとポテトが出てくる理由がわかったような気がしました(少し閉口したので…)。
人間は穀物(小麦)によってうまく自分たちの種を繁栄させてきたと思っているけれど、それは花粉を運ばされているミツバチと何が違うのだろうか。農業を始めたことで、人間は農業をやめて狩猟採集生活に戻ることができなくなってしまった。このあたりは『サピエンス全史』でもありましたね。

 

宝石がいかに欲望と錯覚によって価値を付与されてきたかがわかる本です。
ダイヤモンド、エメラルド、真珠…様々な宝石を人類はどこで見つけ、どのように収集し、どのように価値があると吹聴し、価値あるものとして見せびらかしたのか。
宝石の価値とは欲望と錯覚であるという冷静な姿勢をもとに、歴史をひもとき、欲望と錯覚部分を明らかにしていきます。宝石の歴史がつづられているので面白かったですね。
歴史上、希少で貴重だった宝石が従来よりもより多く手に入るようになる(新しい鉱山が見つかる、養殖が可能になる)際に、いかにその宝石の価値を落とさないか、ということに宝石を売る側は労力を注ぎ込んだか、そしてデビアスやミキモトは見事にそれに成功してきたかがわかる、皮肉たっぷりの本でもあります。

2018年7月後半の読了本リスト

従来の1ヶ月分の読了本リストから、半月分の読了本リストの記事作成に変更してみました。

『やってはいけないデザイン』 平本久美子
『未来の年表2  人口減少日本であなたに起きること』 河合雅司
『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』  若林理砂
『天駆せよ、法勝寺』 八島游舷

 

名刺、スライド(パワーポイント)、チラシを作る際の、初歩的なデザイン上の注意点がわかります。もともと著者が行っていたチラシ作成の市民講座の講義内容が元になっていますので、デザインの知識がほとんどない私でもわかりやすい内容でした
いつもではありませんが、スライドを作る機会が仕事上ときどきありましたが、そのとき本書の知識があったらよかったなぁ…、と思いました。
フルカラーでわかりやすく短時間でさっくりと読めますので、見やすいスライド作成のお供におすすめです。

ベストセラー続編です。1は人口減少の全体感の説明、政府・企業としての対処法、2は人口減少により、個人の身の回りには何が起こるのか、どう対処すればよいのかを具体的に書いています。人口減少問題自体は多少知識があるので、本書(続編)を読んでみることにしました。
「個人の身の回りに、どんな問題が起こるか」はわかりやすく納得できたのですが、本書で提示されている「問題への解決方法」は違和感を覚えるものがかなりありました。
著者は人口減少(と政策的な解決方法)については専門家だと思いますが、日本国民個人の具体的な生活の専門家ではないので、致し方ないとは思います。
対処法は提案のひとつとして割り切って読みつつ、問題への対処方法はやはり読者個々人で考えていくことが必要そうです。

著者買いの1冊。
本書の要点は「健康管理のためには、規則正しく十分な睡眠を取り、規則正しくバランスのよい食事を取り、毎日ある程度身体を動かすこと」これにつきます。
ではなぜ本1冊の文章が必要なのか。それは、基本だけれどもこれができていない人が多い(もちろん私もその一人)だからです…。
なぜ「寝る・食う・動く」を整えることが健康につながるのか、具体的にどうやってこれらを身につけていけばいいのか。それを丁寧にかみくだいて説明指導してくれる本ですね。
「寝る・食う・動く」ってつくづく健康でいるための基本であり奥義なんだと感じました。

仏教SFいいですね。冒頭の法勝寺の描写ですでにぐいぐい引き込まれました。
ー「佛理学(ぶつりがく)。それは、万物を構成する佛質(ぶっしつ)と佛精(エネルギー)を相互転換する手法を研究する学術分野である。佛のおしえの七割は佛理学として理論化され、再構築された」ー
これでもうこの世界は有りだ、という気がしてきてしまうので不思議です。
著者によると、キリスト教のディテールを取り込んだ小説はたくさんある(『ダヴィンチ・コード』など)のに、仏教のディテールを取り込むことに挑戦したということです。フィクションの舞台装置として既存宗教をうまく使うって、中二病が発症しそうなわくわく感があります。