8月前半は、読みやすいけどずっしり来る、けっこうな読み応えの本が続きました。
『医療現場の行動経済学』 大竹文雄、平井啓
『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』 スコット・ギャロウェイ
『失敗の科学』 マシュー・サイド
『みんなの家事日記』 みんなの日記編集部
『働く女子のキャリア格差』 国保祥子
『ロード・エルメロイII世の事件簿 8 case.冠位決議(上) 』 三田誠
著者買いかつジャンル買いの一冊。行動経済学、結構好きなんです。(カーネマン&トヴェルルスキー、リチャード・セイラーあたりの第一世代が書いた、一般向けの本ではまりました)。
さて、人間の意思決定が絡むことであればなんであれ応用の可能性がある行動経済学ですが、その知見を日本での医療分野でどう応用できるか、ということが語られています。
医療分野という、決定が人の生命に大きく関わり、かつ従事者(医者)が特別視される分野。本書のタイトルですでに、非常に大きな影響があることを予想しましたが、その通りでした。
医学シンポジウムでの講演内容が主になっているため、医療分野の専門用語も多く飛び交いますが、きちんと説明をしてくれているため、迷子になることはありません。
むしろ、医療の分野で交わされている議論の生々しさのようなものが迫ってくる感じがしました。いろいろと例はあるのですが、ひとつ挙げますと、子宮頸がんのHPVワクチンの接種率向上(「一万個の子宮」などで最近大きく取り扱われるようにもなりました)のための施策が語られていますが、その前提知識(医師にとっては確認)として語られている、罹患時の経過やリスクが統計的に語られる部分。そこで語られる事実(症例を統計的に捉えたもの)のリスクの高さに背筋が寒くなる思いがしました。医師は知っているけれども、社会全体には必ずしも共有されていない事実なので(それこそ、「一万個の子宮」などでは記載されているのでしょうが未読なので…)
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さて、とはいえ主題は行動経済学を医療現場でどう活用するか。行動経済学についてもきちんと解説を入れて(実際に医師向けの内容なので、行動経済学に関する知識が全くなくても問題ないように解説が入っています)、さまざまなケースが語られます。
本書は、行動経済学が実際に世の中にどう応用されて役に立つのか、という問いに対し、日本にいる人にはすごく身近に感じられる実例を提供しています。
医療現場とはすなわち、病院に行ったときの患者本人(だけでなく家族なども含む)体験の現場です。ですから、本書で取り上げられているケースは、医師だけではなく患者の立場に立つ私たちに取っても、想像がつきやすいのでしょう。
つまり、医師だけではなく、それ以外の圧倒的多数である、いつか自分や家族が病気や怪我になりそして死ぬ普通のひとである私たちにとっても、本書の内容は大変示唆に富む重要なものです。
いつか私たちは病気か怪我でそのほか何らかの要因で、自分やあるいは近しい人が病院で死ぬのがほとんどなのですから。その際に、起こりうるすれ違いを少しでも小さくするためにも、つまり自分自身のためにも、ぜひ本書をお勧めします。
日経でも取り上げられていましたし、著者のTEDを見て面白そうだなと思ったので購入。
アメリカ人著者の書くこの手の本の例に漏れず、やはり本書もかなり長いので、なるべく短い時間でまず内容をつかんでしまいたい方にはTED動画もおすすめです(動画も20分くらいと長めなんですが…)
四騎士とは、Google、amazon、Facebook、Appleの4社のこと。この4社が他の会社と比べていかに異なっているのか、この4社に今の世界が作り替えられているのかが語られます。
四騎士はそれぞれ、脳、腕、心、性器という人体の要所(心は臓器ではありませんが、人間には欠かせないものとして)を押さえている。それが、今までの同業他社とは異なるストーリーのもとに、どのようになされており、どのような成果を挙げ、同時にどのようなマイナス面を止まっているのか。それが十二分に語られます。
著者の語る内容は厳しいまでの事実ですが、同時にその語り口は皮肉たっぷりで痛快ささえ覚えるので、読後は重たくありません。(でも事実としては重いのですが…)
「Googleは現代社会における神である。私たちは皆、視線をスマートフォンに落とし下を向いて祈りを捧げ、自分たちの問いかけに答えを得ている」 などと語られるとその通り!という感覚と皮肉に思わずにやにやしてしまいました。
私たちは失敗をどうとらえればよいのか?失敗から学ぶためには、どんな手法をとるべきなのか。それをまさに科学的に考えようとしたのが本書です。
本書では、失敗から学習するシステムのできあがっている組織の代表として航空業界を、失敗から学習できないシステムの内包された組織として医療業界を挙げています。
「医療現場の行動経済学」と併せて、医療の技術が大変な進歩を遂げた現代では、今後改善が求められる(そして可能な)のは、人間のオペレーションなのではないかと思いました。
個人単位でミスを減らすにはどうするればいいか工夫するのもひとつの知恵。
一方で組織(多人数)で失敗をどうとらえるかというのは、つまり、社会全体で失敗をどう役立てていけばいいのか、ということ。失敗という資源をうまく生かす方法を考えると同時に、組織内の失敗の責任を個人のみに帰さないよう考えることが、人道的にではなく功利的にもいかに大切なのか。それが本書の様々な例で実感されます。
『じっくり読みこんでいただくのはもちろん、パラパラめくって、自分に合いそうな
やり方だけをつまみ食いするのもおすすめします。家事のモチベーションアップと
マンネリ打開に効く一冊です。』という説明書き通り。
見開き2ページ~4ページごとにひとり、各家事のポイントなどを紹介しています。インスタグラムにインタビューと説明をつけたもの、いろんなひとの紹介ブログ、雑誌の特集号をもっと煮詰めた感じ。私にはちょっと合いませんでしたが、このスタイルが好きな方にはきっとたまらないんだと思います。
今現在、女性が働くこと、働きながら育児をすると何が起こるのか。そこには、意図せぬすれ違いがあり、様々な不利益もあり、それらをなんとかしようとしている著者のような人たちがいる。まさに現状を知らしめる本でした。
もちろん働く女性といっても、個々人の事情は様々です。でも全体の傾向として、働く女性だけでなく、女性と一緒に働いている男性にも、就労していない女性にも、現状をわかってもらうものとして意義があると思います。
はい、シリーズ新刊が出ると買ってしまうシリーズです。
著者がひとまず本書とその続きで一段落させる、と語っている通り、大団円に向けて今までのさまざまな出来事や登場人物がぎゅーっと詰まってきて面白くないわけがないです。
本シリーズお好きな方は、ぜひぜひ上下巻出揃うなんてもったいないことはせず、早めに手に取って本巻の最後を読んでいただき、次巻が発売されるまでその内容に思いをはせると楽しいですよ、きっと。
あと、本書のcase名、冠位決議にはふりがなできちんと「グランドオーダー」と記載されております。なんですかねぇ、なにか携帯ゲームの方とつなげてきたりするんでしょうか(やってないんですが)実に意味深な感じもしつつ、なにもない可能性もあって楽しみです。