2018年10月前半の読了本リスト

  • 『「健康食品」ウソ・ホント 「効能・効果」の科学的根拠を検証する』
    高橋久仁子
  • 『子育ての大誤解 重要なのは親じゃない〔新版〕 上・下』
    ジュディス リッチ ハリス
  • 『樹木たちの知られざる生活──森林管理官が聴いた森の声』
    ペーター・ヴォールレーベン
  • 『必要な情報を手に入れるプロのコツ』喜多あおい

内容は面白いし読みやすい本が多かったですね。1冊を除いては…!(後述します)

 

健康食品、買ったことはありますか。

トクホや栄養機能食品、機能性表示食品は、コンビニエンスストアやスーパーで扱われている飲料、食用油などの中にも数多く存在します。
そのため、買ったことがある、そうとはっきり意識せずに買ったことがある人がかなり多いのではないでしょうか。かくいう私自身もトクホ飲料を物珍しさに買った覚えはあります。

トクホや機能性表示食品は、記載に関して国の制度・規制が存在します。
しかしその制度、実態がどれだけ危ういものかを、本書は詳細に描き出しています。

そもそも「機能性表示食品は経済活性化のためにつくられた」ということ自体知らず、結構な驚きでした。

本書後半部分の、トクホや機能性表示食品のパッケージ表示内容と根拠論文をきちんと読み解いていくところなど、メディアリテラシーの授業のお手本のようです。限りなく黒に近いグレーの記載を、根拠論文を取り寄せてきちんと読み解いていく…。

リテラシーの基本ではあるのですが、これだけの手間。この手間を、食品を購入する国民ひとりひとりがかけていくことを想定するのは非現実的です。

そんなリテラシーと手間が求められる表記方法を、国が制度として正式に認めてしまっていいのか。
そんな著者の問いかけが、本書を読む間ぐるぐると頭を回るようでした。

目が覚めるような思いをした著者の指摘をもうひとつ。

それは、「健康食品の表示」問題は、購入してしまう人だけの問題に留まらない、ということです。

「国は、膨大な額になっている医療費の問題を抱えていますが、このような制度(トクホ、栄養機能食品、機能性表示食品)を設けることが、長期的には医療費のさらなる増加をもたらす可能性をはらんでいることに〝気づかないふり〟を決め込むのでしょうか」

この記述を読んだ瞬間に、健康食品の表示制度問題は私にとっても他人事ではないのだ、と思うことができました。
健康とはあくまで個人の目標ではありますが、その健康に至る・維持するための健康保険制度は紛れもなく国家政策です。
そして健康保険制度を支える医療費は、現役世代の保険料だけでなく、税金でも負担がなされています。
つまり、税金を払っている人全員が、健康保険制度の当事者であり、医療費増加問題の当事者であり、ひいては健康食品の表示制度問題の当事者なのです。まだ健康であり、またそういった健康食品を購入しないだろうという自負のある私にしても、それは例外ではないのです。

 

ぜひ本書でトクホ、栄養機能食品、機能性表示食品の「怪しさ」を知ってください。
それは、過度に健康食品を信頼しないことで自分の健康を、ひいては日本の医療制度を少し支えることにもつながるでしょう。

 

子育て神話(子供や親の育て方に大きく影響される)をばっさりと切ってくれる好著です。
確かに「子供が社会的に良くないとされる習慣・性格・行動を取るのは、親の育て方の責任」というのは、当たり前だと捉えられています。
本書の著者はアメリカ在住ですが、日本でもこの「親の育て方」論に対し、あまり反感はないように感じます。

でも本当は、親の育て方が子供に大きく影響するというのは、科学的に検証がされていない「神話」でしかない。
子どもに大きな影響を与えるのは「子ども同士のコミュニティ」つまり「子どもの友達」である。

だから親は、(子どもを大切に育てることは大事ではあるけれど)、子どもの行動・性格のあれこれについて自分に責任があると思って思い悩む必要はない。

簡単にいってしまえば、これが上下巻に渡る本書のコアの主張です。

しかしこの本書の「親が子どもに与える影響は、従来考えられていたよりもずっと小さい」という主張は、子育て神話(子供や親の育て方に大きく影響される)と真っ向からぶつかります。

なぜこのような主張ができるのか。著者がこの主張に至るまでの心理学・教育学は、歴史上どのような論がなされていたのか。

それらの丹念な説明に、本書はかなりの部分を当てているのです。

心理学の歴史的な流れ、子育て神話がいかに心理学的に検証されようとして失敗してきているか、いかにその検証が困難なものであるのか。
そして検証されていない子育て神話が社会に根強く浸透しているかを、本書ではじっくりと感じることができます。

…そうです、「じっくり」感じられるボリュームの本なのです。
欧米系の著者あるあるですが、日本でなら新書1冊にまとめて発行してくれる内容のところ、著者の思いの丈(具体例)や詳細ケースの記載(かなり細かい点の補足)がたくさんくっついていて、きっちり書いてある分、とにかく長いのです。
私は、本書内容の概要に触れている『言ってはいけない』橘玲 をきっかけに本書を知りました。概要を知っている状態で本書を読めたのは幸いなことでした。

本書に直接挑む際は、途中で疲れてしまわないように、まずは概要をつかむつもりで流しつつ読むのがいいかもしれない…とは感じました。

 

本書は、行政官ではなく、民間の森林管理官として活躍する著者による本です。

訳者あとがきによると、日本では自然の原風景といえば田園風景を思い浮かべる人が多いように、ドイツでは自然の原風景といえば深い森林なのだそうです。
そんな「イメージはあるけれども実態はあまり知らない」森林の様々な面を易しく教えてくれるのが、本書です。

著者が語る森林とは、ドイツの森。そのため日本ではあまりなじみのない樹種も良く登場します。

たとえばトウヒ。”いわゆる「クリスマスツリー」型の典型的な針葉樹”(Wikipediaより)とのことですが、日本で樹木といって、真っ先にトウヒの名前が思い浮かぶひとは少ないでしょう。(日本にも分布していますし、写真を見れば見たことあるというかたは多いかも?)

しかし心配は不要です。著者が語る森。その知らない一面や、いかに街路樹が不遇な状況下で生きているかなどは、日本でもほぼ同じ状況と思われます。本書を読んでいて、知らない世界に迷い込んだ感じはしません。知っているようで知らなかった樹木、その奥深さを味わい、心地よい気分になれる1冊です。森を愛するドイツでは本書がベストセラーになったというのも納得です。

 

さっくりと読める文庫で面白かったです。著者の職業はリサーチャー。つまり情報の裏取りを行ったり、情報をネタとして集めてきたりするプロです。
その方法論を紹介しているのが本書です。著者の方法論がアナログにかなり寄っていたのは、(なんとなく)予想していた通りに意外でした。
「ネットの普及が進んでも、情報探しの基本は変わらなかった」と最前線のプロの立場の著者が言い切っています。
アナログ時代に生まれ育ちデジタル時代に移りつつある中を生きてきた私としては、とても感慨深いです。

2018年9月の読了本リスト

『ワークデザイン 行動経済学でジェンダー格差を克服する』
イリス・ボネット
『人工知能と経済の未来』  井上智洋
『予定通り進まないプロジェクトの進め方』 前田考歩、後藤洋平
『地層のきほん』 目代邦康、笹岡美穂
『入門者のExcel VBA』  立山秀利

9月、ちょっと読書をさぼり気味でした。読んだ本のヒット率は高かったんですけどねぇ。

 

解説者買いです。NHK「オイコノミア」にもご出演されていた大竹先生が紹介されていたので購入しました。
やはりこの手の欧米系書籍に違わず厚い本ですが、具体例などがふんだんに盛り込まれているためのページの多さであり、内容自体はとてもわかりやすいです。
「企業のダイバーシティ研修は、効果がないか、逆効果になっている」など、会社員の私からすると、ドキッとするような例がたくさん載っています。
具体的なアドバイスはアメリカの慣行をベースにして語られています。しかし行動経済学の観点からの原理原則がきちんと説明されているので、日本やその他アメリカと異なる慣行の地域でも本書のアドバイスを活用することは十分に可能です。
普段自分が所属している組織の構造に、いかにジェンダー格差が当たり前のように埋め込まれているのか。それに気づく機会が得られるというだけでも、本書を読んだ甲斐が十分にあったと感じます。

 

中島聡さんのメールマガジン『週刊 Life is beautiful』で紹介されており、興味を持ったので購入しました。
人工知能は最近とてもポピュラーな話題で、たくさん本も出ていますが、本書はその中でもはっきりとした特徴を持っています。
著者の専門がマクロ経済学であり「人工知能に少し詳しいマクロ経済学者が、人工知能が経済におよぼすインパクトを語る」ものとなっている、ということです。
前半は人工知能の現状と今後の予測発展の説明、後半はその人工知能の発展に伴う経済・雇用の変化を説明しています。人工知能に詳しい方は前半をある程度飛ばし読みして、後半に早くたどり着いた方が面白いのかもしれません。

確かによくよく考えてみれば、(私のような)エンジニアでない人間にとっては、人工知能そのものよりも、人工知能により経済や社会がどう変わるのか、のほうがよほど興味をひかれる内容です。本書はその中でも、人工知能が発展・普及したら雇用はどうなるのか、その対応として何がありうるのか、を紹介しています。
本書の主張を簡単に言ってしまうと、「2045年頃には汎用人工知能の普及が予測され、それにより雇用率が激減する。対応策としてベーシック・インカムの導入が現実的」というものです。
ベーシック・インカムの必要性をAI普及による雇用の変化の解決案として出してくるのも面白いですが、そこに至るまでの説明が丁寧で納得できるところが本書の面白いところ。新書なので肩ひじ張らずに読めるのもよかったです。

 

ビジネス書らしいタイトルと書影、そして読みやすさの本ですが、予想を上回る面白さでした。
本書の面白い部分は、プロジェクトの進め方として「プ譜(プロジェクト譜面)」を書く、という具体的な方法を提案している点です。
詳細は本書で見てほしいのですが、かなり実用的であります。
また、本書が対象としているプロジェクトは、システム開発に限りません。

”「未知」を「既知」に変換していく行為。 ノウハウや知識の不足。 有限なお金と時間。
この三要素を満たしていれば、それはすなわちプロジェクトなのであり、
その当事者であるあなたは、望むと望まざるとにかかわらず、プロジェクトマネージャなのです”

本書のこの定義に従うと、「プロジェクト」として認識されるものはかなり広がるはず。私はさっそく仕事のプロジェクトで「プ譜」を書いてみました。今後どう使っていけるのかが楽しみです。

 

NHK「ブラタモリ」が好きで結構観ているのですが、地層に関してはあまり知識がないため、ちょっと買ってみました。カラー見開きで見やすい本です。読み通しはしたものの、全部頭に入ったわけでもないので、今後辞書的にときどき読み返していきたいですね。

 

仕事でVBAを使いたくなったので、自学自習のために購入しました。
実際にVBAを書きながら動かしていけるというのと、自分で調べて進んでいくためのまさに「初めての人にベスト」になるように丁寧に書かれているので、本書を最初に手に取れたのはひとまず良かったと思います。今後続編にあたる『脱初心者のExcel VBA~』などを読んでいけるかは、自分のVBA習熟度次第ですね!