2018年12月前半の読了本リスト

「昆虫こわい」 丸山宗利
「情報生産者になる」 上野千鶴子
「新しい二世帯「同居」住宅のつくり方」 天野彰
「夫婦の家」 天野彰
「スレイヤーズ16 アテッサの邂逅」 神坂一

以上5冊。先月の反動か気楽に読む本が多かったですね。昆虫と論文と住宅と思い出。

2018年は夏休み子ども科学電話相談の虫部門担当、 国立科学博物館の昆虫展などで、著者の名前をよく見ましたので、一度著者の本を読んでみようと思いました。写真の昆虫は色も綺麗なので、ぜひカラー版をお勧めします。

研究対象(昆虫)が好きでしょうがない研究者による、面白エッセイです。 研究対象に過度の思い入れを寄せ「ない」研究者の面白エッセイである「鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ」となんとなく比べながら読んで楽しかったです(特に採集時のテンション)。エ読み物としての面白さだけでなく、昆虫のきちんとした学名や収集場所の詳細も載っていますので、昆虫ガチ勢な皆様(?)にもきっとご満足いただけるのではないでしょうか。

著者の主な採集標的はハネカクシとツノゼミです。昆虫展でハネカクシとツノゼミの展示を見ることができましたが、それまでは間違いなく知らなかった昆虫でした。展示でも思いましたが本書内の写真を見ると、ツノゼミって本当にいろいろな奇想天外奇天烈なカタチをしています。

人があまりいない地域に行って様々な種の採取を行う、昆虫学者はやはり現代の冒険者です(小笠原に向かう鳥類学者もそうでしたが)。ただ、原生林は生物種がそれほど多くなく、ほどよく開かれた森に多種の昆虫が生息しているそうで、それもなんだか面白いところだなと思いました。

 

 

東京大学上野ゼミでの実践に基づく、論文の書き方・レビュー・コメント方法を詳細に説明する本です。著者は、タイトルにある「情報生産」の一つの合理的な完成形を「論文」においており、その詳しい方法を説明しています。

あとがきにて著者は、本書の方法論は「論文」に限って間口を狭くするのではなく、広く一般にも開かれる「情報生産」と位置づけたいとしています。

しかし、最初から6割がたまでは論文を「書く」方法論の説明です。そのため、論文をこれから書く予定はない読者である私は、本書を読む意味を疑い、正直途中で脱落しそうでした。

ところが14章以降の内容は、一転し、論文を書かない立場からしてもかなり興味深い内容です。論文ではなく、およそ一般的な文書(プレゼン含む)の場合にも、どんなことを考えて読むもしくは聞けばよいのか、自分の疑問をどう整理して向き合えばいいのかが、明確に、そして易しく説明されているのです。

本書は、どんな立場の読者であっても、最終部分はとても面白く、タイトルに沿ったと判断できそうな内容です。しかしそこにたどり着くには、タイトルから連想されるとは少々異なりしかも長い「論文の書き方説明」を越える必要があります。

タイトルをきっかけに本書を読んでいった私は、ちぐはぐな印象を受けました。

本書名を「論文の書き方・コメントの仕方」としたくない著者の意図はわかります。でも、タイトルを一部変える・本書構成についてあらかじめ説明するなどの方法で、読んでいる途中に混乱しないように工夫をしたら、本書はもっと楽しく、挫折しそうにならずに、読めたと思うのです。

終盤の内容が面白かっただけに、よけいに惜しいなと思う1冊でした。

 

 

いずれも、戸建て住宅を設計してきた建築家による、戸建て住居を建てる際のアドバイス本です。以前放送されていたテレビ番組「劇的ビフォーアフター」をよく視聴していたことを思いだしページをめくってみたところ良さそうなので読んでみました。家を建てる予定が全くない私にもとても面白かったです。

二世帯同居住宅の個別ケース(間取り図などの説明付き)を紹介しつつ、本書は進んでいきます。まず面白いのは、住宅を設計する過程が、親世帯・子世帯という独立した生活スタイルを持っている2世帯が、どうやって共存するのかを探る過程となっていることです。
住宅を設計するとは、家の中で家族がどう生活するかを想定してもらい、それに併せて構造や間取りを提案し決めていくことである、と著者はいいます。
そのため、特に二世帯同居住宅においては、親子それぞれの世帯の生活の共有・個別部分を明確にし、親子世帯がどのように関わって生活するのかを、住宅の設計時点できちんと整理する必要がある。そうでなければ、 住宅が完成し生活を開始した後に問題が噴出し、結局その住宅での暮らしが良いものにはならないのだそうです。

それで結局どうなるのかというと、建築家である著者が親子それぞれの様子をうかがい、時にはなだめすかして本音をなんとか聞き出しつつ、同居住宅のアイデアを出していくのです。これが、家族ごとに、生活時間帯の違いや騒音、親子の距離感などといった色々な問題がホームドラマのごとく展開されております。

そしてそれらの親子のいざこざを、間取りや機能でなんとか工夫して著者が解決しようとする。面白い1話完結ホームドラマを見ながら、住宅について詳しくなれる、そういった娯楽的に楽しませてもらいました。

 

 

その昔リアルタイムで読んでいたシリーズのため、当時の読者ホイホイされました。

著者も当時から別作品との比較で言っていましたが、このシリーズは戦闘シーンとキャラの濃さで出来上がっています。当時と変わらぬ読み応えなので懐かしみたい方はご安心のうえご賞味ください。

 

2018年11月の読了本リスト

知的生活の設計」 堀正岳
ホモ・デウス 上下合本版  」 ユヴァル・ノア・ハラリ
TDL(東京ディズニーランド)大成功の真相」 ダグラス・リップ

「ホモ・デウス」にがっぷり四つだった11月です。

本書の内容は、10年後を見据えて知的生活(情報へ触れる)をどのように設計するか、という方法論の紹介です。理論的な説明に始まり、具体的なサービス名を挙げその使い方までしっかりと紹介しています。しかしページ数は多すぎずちょうどいいボリューム。読みやすくとっつきを良くするために、かなり文章を削ったのではないかと邪推します。

本書は、巷に溢れるビジネス書・ライフハック本とは一線を画します。 それは本書が10年という「中長期的な軌道」の設計を示す、というコンセプトで作られているからです。
ビジネス書・ライフハック本は、良くも悪くも、目の前の仕事や生活を何とかしようと思った際に読むことを想定しています。差し迫った問題に対処するのは、もちろん大事なことです。そしてそのための本が、現状でこれだけ書かれ読まれているのであるならば。本書のような「中長期」的に大切なことを考える本も、もっとたくさん出版され読まれてもいいのだと思います。

重要・緊急での時間管理のマトリックス(「7つの習慣」のスティーブン・R・コヴィー)に照らしあわせるなら、「重要だけれども緊急ではない」 第2領域の設計を扱おうとしているのが本書だと分類できるかもしれません。

 

本書はひとことで言うなら、起こりうる未来の提示と警鐘、です。

現在サピエンスの社会で起こっていること、過去のサピエンスの歴史を丁寧に説明し、その二つの材料から「不死、幸福、神性を目指す」未来を予測しています。そして、その未来がディストピアとなる可能性を示し、最後にまだディストピアは可能性の一つに過ぎず、回避も可能と述べています。
本書で展開される解説は前著「サピエンス全史」同様にエキサイティングで、本書で示されるディストピアに説得力を持たせます。


サピエンス全史でもそうなのですが、結論はシンプルなのです。結論に説得力を持たせるための、膨大な語りや説明の面白さにこそ、本書の真髄はあります。読んだふりをするだけなら上記の要約で十分です(よくはないのでしょうが)。自分で読んでみて、著者の語りに対し同意や反発を覚えてみるところに、やはり面白さがあるのだと思います。

例えば私自身は、人間至上主義の部分にはいくつか異論を覚えるところがあります。
「完全に単一の自己」「自由意志」が存在しないために、個人の価値は低下する、と著者は述べています。確かにそうなのでしょうが、この「個人の価値」とは、そもそもが西洋における「個人、個人主義」という概念です。

日本含む東洋的な文化圏でいう「個人」は、そこまで絶対的な独立性を持つものではなく、それが故に「個人の意味・価値」もそこまで大きなものではありません。だから実は個人に意味や価値がない、と言っても社会的なインパクトもない。その代わりに意味や価値がなくても、社会は十分に存在していけることの実例になると思うのです。


こんな感じで本書で紹介されているさまざまを味わい尽くす。そんながっぷり四つに組む面白さが味わえます。

 

東京ディズニーランド(TDL)建設までの裏話を、アメリカのディズニー社に当時所属していた著者が明かします。

タイトルに「大成功の真相」とありますが、TDLの成功分析の本ではありませんのでご留意ください。TDL誘致~開園までを、アメリカディズニー側の立場でみた資料の一つです。日本のオリエンタルランド側と資料内容を突き合わせたりすると、近代史検証として楽しそうです。

他にも、TDLという特殊性にこだわらず、「1970~80年代の東京での、日米合同のエンタメプロジェクト」の先駆け例として読んでも面白いです。コンテンツ内容にこだわるのが日本ではなくアメリカ側である、輸入コンテンツ例としてはいろいろ示唆がありそうですね。

 

2018年10月後半の読了本リスト

「ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか」  原田泰
「自分の顔が好きですか?-「顔」の心理学」 山口真美
「世界の再生可能エネルギーと電力システム 電力システム編」 安田陽

今月のヒットは「ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか」ですね。
どれもページ数は少なめですが、内容はかなり詰まった本でした。

かなりいろいろと考えることができる本でした。本書の主張をひとことでいうならば、「ベーシックインカムを通して、 日本政府が貧困問題(の一部)を解決することは現状で可能である」というものです。
ベーシックインカムが、再分配制度として効果が大きいものであること、そして現状の日本でも実現可能である検証が丁寧になされています。
個人的には、「貧困とはお金が足りないということであり、お金を配れば解決する」というのがぐっときました。著者の主張は、『貧困は「お金を配れば解決するもの」「お金を配っただけでは解決しないもの」の2つに分けられ、前者はベーシックインカム制度導入によって、極めて合理的に解決することができる』というものです。
実際の検証を行っていること、ベーシックインカムにつながる社会福祉制度を丁寧に概観している、質の高い新書でした。新書なので読みやすいですし、ぜひおすすめですね。

 

本書は、顔とその認識に関する最近の科学知見を紹介しています。
紹介される顔の認識、脳の働きに関する意外な知見は、大人にとっても十分目新しく面白いです。
本書で紹介されている「顔」に関する人間の特性を通じてわかるのは、「顔」は私たち読者やその身近な人とのコミュニケーションに深く関係している、ということ。私たちが当たり前だと思っている以上に影響を持っているということが説明されているのです。

本書がジュニア新書というレーベルからの出版であることにとても意義を感じます。岩波ジュニア新書は「中学生や高校生の学習に役立つサブテキスト」として、中高生にも読みやすく理解しやすいことを念頭に置いてつくられています。
もし思春期に、顔にコンプレックスを持ちそうになったり、顔が原因で身近な人とのコミュニケーションがうまくとれなくなりそうになったりしても。本書に出会うことでだいぶ楽になれるはずだ、という希望が本書に見て取れるのです。

 

世界の再生可能エネルギーと電力システム 電力システム編 安田陽
度仕組みをきちんと知りたく本書を購入しました。
9月の北海道胆振東部地震で北海道全域での大規模停電(ブラックアウト)が発生した際の報道もわかるはわかるのですが、少し納得いかないような気もしまして。

本書は題名に「再生可能エネルギー」とついていますが、メインはほぼ「電力システム」についての解説です。

”本書では全体的に日本・欧州・北米の世界の3つの地域の電力システムを比較しながら、できるだけ「外からの視点」で日本の電力システムを俯瞰的に再考していきたいと思います。”

著者がこう冒頭で書いているとおり、きっちり比較をしながら説明を進めていくので、理解しやすい入門書でした。

【2018/12/11まで】Kindleセールのおすすめ本、今回買った本

冬の Kindle 本セール(2018/12/11まで)
幻冬舎新書フェア【全品399円セール】(2018/12/13まで)

上記セール本一覧にざっくり目を通した結果を残しておきます。「私が読んだことのあるおすすめ本」7冊と「今回私が買った本」1冊、どれも最低50%オフなので結構お得。

【読んだことのあるおすすめ本】

インターネットや流通網が発達しても、どこに住むかで生活がかなり変わってくる。イノベーションの起こっている「場所」(=都市)にいることの重要性をきちんと説明している本です。当たり前といえば当たり前なんですが、根拠のある主張や議論をするための前提として、押さえておきたいところです。300ページ超えてる本なので Kindle 推奨。

 

データから予測を立てるとはどういうことか、という基本がわかる本です。出版は2013年と少し前ですが、データ予測がより身近になっている今だからこそ押さえておきたい本だと思います。ハードカバーでかなり重いので、 Kindle 推奨。

 

原題「Salt,Sugar,Fat」。現代の食品に塩と砂糖と脂肪がどのように使われているか、その結果現代の食品がひどく食欲を誘発するということ、これらが克明に描かれています。
アメリカ食品市場が舞台ですが、日本もそれほど変わりません。食生活が気になったり、ジャンクな食べ物が好きなかたは、本書を読むとかなりの恐怖体験ができます。(私はしました…)

 

これも「おもしろいけど実例満載で重い」のでkindle推奨です。コンテナがいかに物流にとって大事なのか、そして港湾整備がどれだけ生活にとって重要なのかがわかります。表紙が地味で標題も地味ですがとても面白かった。10年以上前の本ですが、ハードインフラの話なのでそんなに古びていないかと。

 

ここまでの4冊はいずれも「おもしろいけどページ数が多くて重い本」。重い本はやっぱりKindle推奨ですね。

 

北海道電力のブラックアウトがあったので、 一度仕組みをきちんと知りたく買いました(10月後半に読了)。500円程度(セール価格)で専門家が概要を分かりやすく説明してくれる、コストパフォーマンスの高い本です。

 

 

読み応えがあるきちんとした内容ですが、途中で諦めたくならないくらいやさしい説明と文章です。専門家でない読者に配慮しているまさに新書の鑑ですね。
2013年のノーベル賞物理学賞でヒッグス粒子が話題になり、この2冊を買いましたがすごく良かったです。 幻冬舎新書は、原則著者買いするレーベルだと認識しています。

 

 

【今回買った本】

著者買いしました。著者は昆虫学者で、「夏休み子ども科学電話相談」の虫分野担当をしていたり、2018年夏に開催された「昆虫展」(国立科学博物館)の監修もしています。カラー版新書400円って安いですよね。