冊数少なめですが、こんなときもあるさ、な今回。行ってみましょう。
「サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~」鈴木智彦
「もっと言ってはいけない」 橘玲
「だから私はメイクする」 劇団雌猫


「サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~」 鈴木智彦
「アワビもウナギもカニも、日本人の口にしている大多数が実は密漁品であり、その密漁ビジネスは、暴力団の巨大な資金源となっている」という実態を、ルポライターの著者が、築地市場や密漁の当事者に体当たり取材して、生々しく描写しています。
密漁品がこれほど多く(上記の品目では半数近いものもある)出回っており、それに暴力団が深く関わっているということ自体がかなり衝撃的でした。
しかもそれらは、堂々と市場で卸され流通に乗ったり、観光市場で売られたりしている。これほど密漁品が横行する原因は、規制の問題もあるけれども、需要があるため高値で売れる、という実態あってのこと。消費者である自分も決して無関係ではないのだと思い知らされました。
ウナギの絶滅危惧種指定と、漁獲量、輸入量についても詳細が記載されており、そのあたりをきちんと知りたい人にもお勧めです。とりあえず本書でも提示されているように、少しでも保護につなげるためウナギは専門店以外では食べない(スーパーやコンビニで買わない)ことに決めました。


「もっと言ってはいけない」 橘玲
知識社会の仕組み、遺伝の中でも特に人種や性別などについて。様々な「残酷な事実」である知見を紹介しています。
前著「言ってはいけない 残酷すぎる真実」が、遺伝・外見・ 教育、といった関心ある人が多いトピックについて述べていたのと比べると、本書は、キャッチーさ、わかりやすさを代償とした代わりに、より深く掘り進めた続編だといえるでしょう。
前著からメインテーマとして通底しているのは、リベラルが世界中で掲げてきた「人間は誰しも平等で、努力すれば必ず報われる」という主張は、実は様々な学問分野で正しくないことが証明されている、ということです。
著者はこれを、純然たる科学的な事実として伝えており、それ以上踏み込んだ意見等は述べていません。科学的に証明された事実に、自らの解釈を加えることは、あえてしていないのでしょう。
これらの新しい、しかし受け入れがたい知見をもとに、いかに「平等であること」を考えるのか、「残酷な社会」に対してどのような対策を立てるのか、それを求め考えていくことを、読者に問いかけているだろうと思います。
学問的に証明された現実がどれだけ残酷で厳しいものだとしても、正しい現実認識をまず持たなくては始まらない。正しい現実認識がまず出発点だ、という点においては、「 ファクトフルネス」と本書とは、方向性は正反対であれど同じ認識のもとに書かれた本だ、と言えるのかもしれません。


「だから私はメイクする」 劇団雌猫
「浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―」の続編に当たる本書も、面白そうなので買ってみました。『さまざまなジャンルのおしゃれに心を奪われた女性たちが、ファッション・コスメへの思い入れや、自身の美意識をつまびらかに綴り、それぞれが「おしゃれする理由」を解き明かす匿名エッセイ集』(本書紹介文より)です。
様々な立場の、様々な意見の、様々なメイクの女性達の綴った言葉を読んで感じるのは、女性が「メイクする」( 本書では、化粧だけではなく、髪型、服装も含めています) のは、社会に対して自分はどういう立ち位置を取るか、という問題と切っても切り離せない関係にあるのだ、ということです。
自分はそうではないんだけれども、その気持ちはよくわかる、というケースが「浪費図鑑」に比べてかなり多かった気がします。例えば「会社で周りの男性に、自分のメイクやファッションについて無神経に批評めいたことを言われ、それがいやなので、会社では地味で目立たないようにして、会社が終わったら自分の好きな格好をする」というケースなど。自分ではそういった経験はないのですが、もし周りから同じように言われていたら、同じような行動に出ていたかもしれないな、と共感してしまいます。
もしも女性のメイクや服装に、無神経な発言をする人がいたら(男女問わず)、本書を差し出すか叩きつけるかするといいかもしれません(冗談です!)。
少なくとも、女性が身繕いをする、おしゃれをする、という裏には実に様々なものがあるということは、本書で実感できると思います。