「薬物依存症」 松本俊彦
「折りたたみ北京(現代中国SFアンソロジー)」ケン・リュウ
「ヒットの設計図」 デレク・トンプソン
「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」 清水久三子
硬軟織り交ぜつつの、ラインナップとなりました。
「日本では、だいたいの人は、「生の」薬物依存症者をじかに知ることもなく、薬物依存症の何たるかを直接知る機会を持つことはありません。つまり、多くの人は、薬物依存症者に対するイメージを、どこかで聞いた伝聞的な情報をもとにつくりあげているのです。」
確かに、依存症患者は私の近くにも居ません。伝聞的な情報により実態と異なるイメージが社会で一般化しており、その状況が、当事者の治療においてもよくない影響を及ぼしている、というのも納得できます。本書を読み終わったすぐ後に、芸能人が薬物で逮捕される事件があり、その報道の仕方や対応を見て、著者の主張が間違っていないことを、強く感じました。
「同じように薬物に手を染めながらも、なぜ一部の人だけが薬物依存症に罹患するのか」──の答えは、おのずと明らかではないでしょうか。それは、その人が痛みを抱え、孤立しているからです。だからこそ私は、薬物依存症の回復支援においては、薬物という「物」を規制・管理・排除することではなく、痛みを抱え孤立した「人」を支援することに重点を置く必要があると信じています。
社会の多数派が、正確な実態を知らないがために、少数派に対して偏見を持っていたり、実際に不利益な扱いをされていたりする。本書を手に取ったきっかけである「貧困を救えない国 日本」 でも、貧困者に対する同じような状況が問題としてとりあげられていました。少数派に該当するのが、貧困者でも、薬物依存症患者であれ、同じような状況が日本では発生しているのではないかと思います。
自分が何となしに持っていたイメージが、いかに実態と異なっているか。自分が、薬物依存症患者者ではない多数派であるからこそ、多数派が少数派を踏みにじることがないように、少数派でしかも普通のひとよりも「弱い」部分のある薬物依存症患者の置かれた実態を正確に知っておく必要がある。
回復支援の立場からの自己反省も込めて書かれたであろう本書が、鋭く訴えてきているように感じました。
中国SFの7作家13作品の短~中編のアンソロジーです。中国SFの多彩さを味わえる1冊です。Rebuild(ポッドキャスト番組)で名前を聞いて気になって読んでみました。
小難しいことを考えずに娯楽小説としても楽しめますし、作品の背後にある、文化や価値観、それらが及ぼす効果を考えると、とても広がりがあります。14億の人口と広大な大陸を擁するアジア地域の国での文学の多様さが楽しめます。
私が好きなのは、「折りたたみ北京」「円」「童童の夏」「麗江の魚」あたりです。「折りたたみ北京」は、残酷ともいえる社会性を持った設定の、面白さと近未来感。
「円」は、歴史ものと現代性の融合。
「童童の夏」は、もうすぐ成立しそうな技術と、それによりひとが変わっていく様を、少女の視点から眺め。
「麗江の魚」は、サイバーパンクがほんの少し香る、幻想的なひととき。
SFを読んで抵抗のない方であれば、本書を楽しめると思います。
原題は「Hit Makers」。ヒットを作り出した人たちがどういう人で、それぞれどのような法則に沿ってそれぞれの作品・製品を作っているのか。それを通して、ヒットというものが、人のどのような性質によって生み出されているのを明らかにしていっている本です。
残念ながら(?)、ヒット商品が作れる法則は本書では示されません。むしろ「ヒットするものはいくつかの法則を満たしていることがわかるが、これをすれば必ずヒットする、という法則はない」というのが最終的な主張です。
しかし、少なくともこれを満たしていなければ現代でヒットするのは難しい、という条件については、本書はとても丁寧に説明しています。
ヒットという現象は、人間が起こすものです。つまりヒットの法則を探るとは、ひとがどのようにモノやサービスの好き嫌いを判断し、それを他の人に伝え広げるのかを、解明していくことなのです。
人は個人的に好き嫌いの判断をするだけではない。人気の出たものを買いたくなる「影響される生き物」だ。しかしそれだけでもない、自分はこういう人間だからこれを買うという「自己顕示したい生き物」でもある。
モノやサービスを作ったり売ったりする人にとってもちろん参考となる1冊です。
それに加え、SNSなどで個人が情報を他者に伝えるのが日常のこととなった今、その仕組みを知ることができる本書は、誰にとっても有益なのかもしれないと感じました。
「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」 清水久三子
ビジネス雑誌で紹介されていたのをきっかけに、参考になりそうだと思って買いました。会社で資料を作ることがあるのなら、まず最初のセオリー集として、本書を読むととても役に立ちます。もっと早く読んでおけば、もっと見やすい資料が作れたのに、と思うことしばしばでした。
セオリーを説明した後に、具体例として、ビフォア・アフターの資料が載っているのが良いです。同じ内容が、見せ方を変えることで、どれだけ読みやすくなるかがはっきり分かります。
文章をわかりやすく書くためには、結城浩「数学文章作法」。図表を使った資料をわかりやすく書くためには、本書。 この2冊が現在のおすすめです。