2019年4月の読了本リスト その1

「子どもの人権をまもるために」 木村草太
「働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる」 橘玲
「OKR 」 クリスティーナ・ウォドキー
「一生楽しく浪費するためのお金の話」 劇団雌猫、篠田尚子
「徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと」 ちきりん

働き方、お金、住宅と、家政学分野の本が固まっています。いえ、私が好きなので固まっているだけなのです。


「子どもの人権をまもるために」 木村草太(編)

さまざまな子供の権利について、各分野の専門家16名が寄稿しています。専門分野に絞っての記載なので、どれも短いにもかかわらず鋭く内容が詰まっています。

この本のコンセプトは、「子供だった頃、こんな大人に出会いたかった」

親の立場から、子どもの権利をどう考えるか、どう守るか。
子どもとして、自分の権利として何が日本の社会で与えられているのかを知る。
本書はどちらの立場からでも読めるよう、読みやすい文章で構成されていますが、その内容はひとつひとつ身近でありかつ重みのあるものです。
中学生くらいの知り合いがいたとしたら、もし全部読み切るのが厳しいとしても、学校生活に関する部分だけでも、読んでみてほしいと思いました。


「働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる」 橘玲

タイトルにもなっている、働き方2.0と4.0は具体的には下記の形です。

働き方2・0 成果主義に基づいたグローバルスタンダード
働き方4・0 フリーエージェント(ギグエコノミー)

日本が今働き方改革で実現しようとしているのは、働き方2.0。しかしグローバルスタンダードは既にその先の働き方4.0なんだ――というところから本書は始まります
「不条理な会社人生から自由になれる」と書籍副題で問題をかなり大きく立ち上げています。そして、そもそも働き方2.0、4.0といったバージョンはどういうものか、なぜそのような形で働き方が変わってきたのか、というのを、いろいろな論を緻密に組んで自説を構築していっています。こういった文章を書くときの流れは抜かりなく面白い著者で、本書でもそれは遺憾なく発揮されています。

「不条理な会社人生から自由になれる」方法もいくつか示しています。これさえやれば、という特効薬はないため、いくつかの方法を提案し、読者は可能なものを組み合わせて実行するという形になるのです。誠実に述べるならそれしかやりようがないでしょう。

個人的に面白かったのは、

テクノロジーによって生活がどんどん快適になるにつれて、すべての不愉快なものは人間関係からやってくるようになったのです。

というくだりです。
なるほど、生活環境がどんどん快適になるからこそ、人間関係が唯一最大、かつ誰にでも起こりうる不愉快(悩み)として存在感を増してくる。しかし個人が完全孤立して生きることも、まだ現実味はないでしょう。だとしたら今後求められるのは、人間関係の不愉快の発生を、極力抑えるように設計されたサービスなのではないか。そんなことを思いました。

 


「OKR 」 クリスティーナ・ウォドキー

前半がストーリー調、後半はセオリーの詳細説明という構成を取っています。本書全体が短めで、かなり読みやすいです。欧米のこの手の本はかなり分厚いものが多いという印象があり、ちょっと意外でした。
有能な人たちとモチベーションを上げて仕事をしていく手法論、でもありますが、なによりも自分が納得して仕事をするための方法論です。

ベンチャーの経営者は、会社を自分の望む方向に向かわせることができる。でも自分の向かいたい方法を見失う可能性も非常に高いんだな、と感じました。日本でいうならベンチャー以外にも中小企業の社長レベルでもありそうな気がします。
会社のビジョンを明確にし、チームがするべきことをきちんと実行していくために、限界までシンプルにしつつ要点を押さえることに特化した方法論。文章の質も情報量も読みやすいので、ビジネスの目標論として一読の価値ありです。

 



「一生楽しく浪費するためのお金の話」 劇団雌猫、篠田尚子

自分が浪費家だとはっきり認識していて、 なおかつそれをどうにかしたいと思う人に向けた本。何にお金を使うかはその人の価値観次第。それをまずちゃんと認めた上で、これだけは押さえておきたいという原則が示されているのが本書の特徴です。

家の片付け・収納界隈でも似たようなケースが発生するなぁ、と思いました。
家の中にどれだけの量のどんなものがどのように配置されているのが理想なのか、という問いの答えは、各人によって異なるはず。 それぞれの価値観によるわけです。
断捨離の本で提案されている状態、ミニマリストのお部屋が誰にとっても理想なわけではない。だからカウンターとして、こんまりメソッド(「ときめき(spark joy)があるか」という、個人の価値観に依拠した方法論)が、あれだけ受け入れられたのだと考えています。

同じように、本書は、社会的に理想の家計の形を示すことはしません。最低限押さえておくべきポイント・考え方を示した上で、様々な浪費家たるオタクたちの今後のマネープランを立て直すべく、質問に個別に答えていっています。
家計管理のうえで最低限守るべき原則を知るために役に立つので、浪費家はもちろん、そうでない人にも、おすすめできる本です。

 


「徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと」 ちきりん

住宅関係の本が割と好きなのと、 著者は独特かつ合理的な解説をするのが上手いので買ってみました。新築住宅を建てる、戸建てをリフォームする本は読んだことありますが、マンションのリノベーションというのは初めて。マンションならではの事項もたくさんあって 面白かったです。
著者もアピールしていますが、素人の立場から、こういうことがあったよということを書いているので、リフォームを依頼する側として非常にありがたい本だと思います。著者と同じように、分譲マンションでリフォームを考えているなら、まず参考に読んでみるといろんな失敗を回避できそうです。
意外だったのは、引越しが結構大変だということ、建築と移住のスケジューリングが一番の肝であるということですね。この辺りはリフォームに限らず、新築にも共通するのかもしれませんが。

2019年3月後半の読了本リスト

『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』 倉下忠憲
「魚が食べられなくなる日」 勝川俊雄
「誰のために法は生まれた」 木庭顕
「これからの本屋読本」 内沼晋太郎

タスク管理、漁業、古典作品とローマ法、本屋の経営。
なかなか良い混沌度合いです。

『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』 倉下忠憲

タスク管理を体系だって紹介する入門書です。
ただしく、これからタスク管理をやろう、ちょっとどういうものか知りたい、という人に向けた本です。
基本用語の紹介から、いくつかあるタスク管理手法を網羅的かつ中立的に紹介、そして実践に当たっての落とし穴をフォロー、そして原典となる書籍へのリファレンスも充実しており、初心者にとてもやさしい構成となっています。
網羅的かつ中立的というのは、著者個人のやり方を紹介するのではなく、タスク管理というならだいたいこのあたりが有名どころだよね、というところをきちんと押さえているところです。
しなくていい失敗は最小限に、ただし自分で試行錯誤するうえで失敗は避けられない、そして、万人に有効な単一の方法というのはなく、各人が自分に適した方法を試して見つけていくしかない、という、少し距離を取った(押しつけがましくない)優しさを感じました。

私自身の読書経験からしても、タスク管理の手法がビジネス書で紹介される場合「この方法を導入すれば、仕事がどんどん進むようになる!」というような独りよがりな論調のものが、残念ながら多数存在しています。著者は以前よりこういった本とは一線を画する、タスク管理に関する文章を書いてきているので(著者のメールマガジンを購読しています)そのひとつなのだと感じました。

ぜひ仕事やプライベートでやることが多すぎる、うまく回っていないと感じるならば本書をお取りください。タスク管理の広い世界が、整然と整理されて見えてくると思います。

「魚が食べられなくなる日」 勝川俊雄

消費者の嗜好が変わったから魚食文化が危ういのではない。なによりも、 日本の漁業の仕組みが、魚資源をありったけ獲ることだけを考えており持続可能な仕組みになっていない、ということを訴えている本です。

「サカナとヤクザ」で本書名があがっていたので読みました。「サカナとヤクザ」が漁業とヤクザの強い関係(密漁ビジネス)のヤバさを掘り下げた本であるところ、本書は、密漁ではない正規の漁業自体も、魚の数が減少しているにも関わらず漁業規制などが機能していない、ヤバい産業であることを明らかにしています。

2010年から2030年の間に、漁業生産が何% 変化するかという予測値です。世界全体では 23・6% の増加で、増加の割合は、国や地域によって異なっています。マイナス成長の国と地域は日本(マイナス9・0%) のみです

魚の価格が高くなっている、というのはなんとなく感じてはいましたが、 世界の様々な地域の漁獲高は上昇予測をされているなか、日本だけが漁獲高が右肩下がり予想というのは全然知らなかったのでびっくりしました。この現状が、あまりメディア等報道では見かけない仕組みについても、がっちりと説明しており、著者の強い危機感を感じます。

戦後すぐに作られた、獲れるだけ獲ってしまう持続性を無視した漁業が続いていれば、資源の大幅減少も当然の帰結なのでしょう。ひとまず、いち消費者としてはエコラベルの魚を探してなるべくそれを買うようにします…。

 

「誰のために法は生まれた」 木庭顕

ローマ法研究者である著者が、中高生に向けて行った「特別授業」の様子を本にしたものです。「近松物語」「自転車泥棒」などの名作映画やギリシャ悲劇を観て(読んで)、そのなかにあるギリシャ・ローマ法の概念(占有など)を探り解説していく、というやりかたが採られています。

古典を解説する、古典作品のさまざまな背景やつくりを読み解くのは、やはり楽しいです。最初の「近松物語」を読んでいるあたりでは、まだまだどのように法概念へつなげていくのかは明らかではないのですが、作品解説が面白いのでそれだけで十分読み進められます。

そしてどんどんギリシャ喜劇・悲劇、そして最後には判例と、古典作品解説で見られた内容がどんどんとつながっていくのでとても読みやすいと感じました。
個別の法律論に触れる前に、法がなにを目的にしているのかという概念を知る。まさに中高生にぴったりな内容なのかも、と思います。

題材にあげられた作品をどれも読んだことがなかったので、おいおいの宿題にしようと思います。


「これからの本屋読本」 内沼晋太郎

Web で作者が全文公開しているのを見て、なかなか面白そうだったので本を購入しました。 本一冊分の内容を Web で一度に読むのはなかなかしんどいので、やっぱり書籍が買いたくなりますね (とはいえ電子書籍版を購入しているわけですが)

本書で明らかにしたいことは三つある。

一つ目は、本と本屋の魅力。なぜこれほど厳しい、儲からないと言われながらも、皆が本屋に愛着をもち、続いてほしいと願ったり、自らはじめたりするのか。あらためてそれを明らかにしたい。

二つ目は、本を仕入れる方法。小さな本屋を開きたいという情熱をもった個人がこれだけいるのに、その方法についてはなぜかまとまった情報がない。

三つ目は、小さな本屋を続けるための考え方。ここまでを前半の基礎編とすれば、ここからは後半の実践編といえる。

本屋を経営したいひとには、二つ目と三つ目は必須の情報でしょう。 ただ本が好きなだけの私でも、一つ目は興味の真ん中で面白かったし、二つ目と三つ目は業界の裏側を覗くような気分で読んでいました。

著者は、「昔は情報を得るためには本屋に行く必要があり、人は必ず本屋に行ったが、 今は情報の入手先が他にもたくさんあるので、本屋に来店する人は昔よりも減った」「だからこそ、本が好きな人が目的をもってわざわざ来店してくれる店作りをする必要がある」と述べています。

確かに今は、インターネットやその他で情報を得ることができるので、昔よりも何かがあったらとりあえず本屋に行くという機会は、自分自身の体験としても確実に減っています。著者が言うように、おしゃれな雑貨屋さんに行くように行けるような本屋、というのは確かにいまそう多くはありません。
著者の経営する本屋も含めて、今あるユニークな本屋というのが具体的に紹介されていたので、今度尋ねてみようかな、とも思いました。


発行部数減少とそれに伴う出版業界の縮小という現状は、決して明るい材料ではありません。でも出版不況と業界の危機を声高に訴える(そしてそれに対して何か対応策を示すわけではない)言説をうんざりするほど見かける中で、本書が、まだまだ本屋と紙の本が文化としてしぶとく生き残る可能性があることを教えてくれます。本の未来のあり方としてありうる、そして明るい可能性を見せてくれました。