『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』 倉下忠憲
「魚が食べられなくなる日」 勝川俊雄
「誰のために法は生まれた」 木庭顕
「これからの本屋読本」 内沼晋太郎
タスク管理、漁業、古典作品とローマ法、本屋の経営。
なかなか良い混沌度合いです。
『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』 倉下忠憲
タスク管理を体系だって紹介する入門書です。
ただしく、これからタスク管理をやろう、ちょっとどういうものか知りたい、という人に向けた本です。
基本用語の紹介から、いくつかあるタスク管理手法を網羅的かつ中立的に紹介、そして実践に当たっての落とし穴をフォロー、そして原典となる書籍へのリファレンスも充実しており、初心者にとてもやさしい構成となっています。
網羅的かつ中立的というのは、著者個人のやり方を紹介するのではなく、タスク管理というならだいたいこのあたりが有名どころだよね、というところをきちんと押さえているところです。
しなくていい失敗は最小限に、ただし自分で試行錯誤するうえで失敗は避けられない、そして、万人に有効な単一の方法というのはなく、各人が自分に適した方法を試して見つけていくしかない、という、少し距離を取った(押しつけがましくない)優しさを感じました。
私自身の読書経験からしても、タスク管理の手法がビジネス書で紹介される場合「この方法を導入すれば、仕事がどんどん進むようになる!」というような独りよがりな論調のものが、残念ながら多数存在しています。著者は以前よりこういった本とは一線を画する、タスク管理に関する文章を書いてきているので(著者のメールマガジンを購読しています)そのひとつなのだと感じました。
ぜひ仕事やプライベートでやることが多すぎる、うまく回っていないと感じるならば本書をお取りください。タスク管理の広い世界が、整然と整理されて見えてくると思います。
「魚が食べられなくなる日」 勝川俊雄
消費者の嗜好が変わったから魚食文化が危ういのではない。なによりも、 日本の漁業の仕組みが、魚資源をありったけ獲ることだけを考えており持続可能な仕組みになっていない、ということを訴えている本です。
「サカナとヤクザ」で本書名があがっていたので読みました。「サカナとヤクザ」が漁業とヤクザの強い関係(密漁ビジネス)のヤバさを掘り下げた本であるところ、本書は、密漁ではない正規の漁業自体も、魚の数が減少しているにも関わらず漁業規制などが機能していない、ヤバい産業であることを明らかにしています。
2010年から2030年の間に、漁業生産が何% 変化するかという予測値です。世界全体では 23・6% の増加で、増加の割合は、国や地域によって異なっています。マイナス成長の国と地域は日本(マイナス9・0%) のみです
魚の価格が高くなっている、というのはなんとなく感じてはいましたが、 世界の様々な地域の漁獲高は上昇予測をされているなか、日本だけが漁獲高が右肩下がり予想というのは全然知らなかったのでびっくりしました。この現状が、あまりメディア等報道では見かけない仕組みについても、がっちりと説明しており、著者の強い危機感を感じます。
戦後すぐに作られた、獲れるだけ獲ってしまう持続性を無視した漁業が続いていれば、資源の大幅減少も当然の帰結なのでしょう。ひとまず、いち消費者としてはエコラベルの魚を探してなるべくそれを買うようにします…。
「誰のために法は生まれた」 木庭顕
ローマ法研究者である著者が、中高生に向けて行った「特別授業」の様子を本にしたものです。「近松物語」「自転車泥棒」などの名作映画やギリシャ悲劇を観て(読んで)、そのなかにあるギリシャ・ローマ法の概念(占有など)を探り解説していく、というやりかたが採られています。
古典を解説する、古典作品のさまざまな背景やつくりを読み解くのは、やはり楽しいです。最初の「近松物語」を読んでいるあたりでは、まだまだどのように法概念へつなげていくのかは明らかではないのですが、作品解説が面白いのでそれだけで十分読み進められます。
そしてどんどんギリシャ喜劇・悲劇、そして最後には判例と、古典作品解説で見られた内容がどんどんとつながっていくのでとても読みやすいと感じました。
個別の法律論に触れる前に、法がなにを目的にしているのかという概念を知る。まさに中高生にぴったりな内容なのかも、と思います。
題材にあげられた作品をどれも読んだことがなかったので、おいおいの宿題にしようと思います。
「これからの本屋読本」 内沼晋太郎
Web で作者が全文公開しているのを見て、なかなか面白そうだったので本を購入しました。 本一冊分の内容を Web で一度に読むのはなかなかしんどいので、やっぱり書籍が買いたくなりますね (とはいえ電子書籍版を購入しているわけですが)
本書で明らかにしたいことは三つある。
一つ目は、本と本屋の魅力。なぜこれほど厳しい、儲からないと言われながらも、皆が本屋に愛着をもち、続いてほしいと願ったり、自らはじめたりするのか。あらためてそれを明らかにしたい。
二つ目は、本を仕入れる方法。小さな本屋を開きたいという情熱をもった個人がこれだけいるのに、その方法についてはなぜかまとまった情報がない。
三つ目は、小さな本屋を続けるための考え方。ここまでを前半の基礎編とすれば、ここからは後半の実践編といえる。
本屋を経営したいひとには、二つ目と三つ目は必須の情報でしょう。 ただ本が好きなだけの私でも、一つ目は興味の真ん中で面白かったし、二つ目と三つ目は業界の裏側を覗くような気分で読んでいました。
著者は、「昔は情報を得るためには本屋に行く必要があり、人は必ず本屋に行ったが、 今は情報の入手先が他にもたくさんあるので、本屋に来店する人は昔よりも減った」「だからこそ、本が好きな人が目的をもってわざわざ来店してくれる店作りをする必要がある」と述べています。
確かに今は、インターネットやその他で情報を得ることができるので、昔よりも何かがあったらとりあえず本屋に行くという機会は、自分自身の体験としても確実に減っています。著者が言うように、おしゃれな雑貨屋さんに行くように行けるような本屋、というのは確かにいまそう多くはありません。
著者の経営する本屋も含めて、今あるユニークな本屋というのが具体的に紹介されていたので、今度尋ねてみようかな、とも思いました。
発行部数減少とそれに伴う出版業界の縮小という現状は、決して明るい材料ではありません。でも出版不況と業界の危機を声高に訴える(そしてそれに対して何か対応策を示すわけではない)言説をうんざりするほど見かける中で、本書が、まだまだ本屋と紙の本が文化としてしぶとく生き残る可能性があることを教えてくれます。本の未来のあり方としてありうる、そして明るい可能性を見せてくれました。