2019年4月の読了本リスト その2

「貧乏人の経済学」 アビジット・V・バナジー
「持続可能な医療」 広井良典
「サピエンス異変」 ヴァイバー・クリガン=リード
「共働き夫婦 お金の教科書」山崎俊輔

割合にまじめな本が多いような。


「貧乏人の経済学」 アビジット・V・バナジー

相変わらず長い厚い本ではあるのですが、 その具体例の紹介・そして様々な対処が必要であり、 一つの方法だけでは対処できないということこそが、著者の主張。なのでこの文章量もやむを得ない。
本書は、貧困をモデルとしてひとくくりにしない、というスタイルを取るため、具体例には意外なものが多く、それぞれ面白いです。訳者の下記の文章が本書のちょうどよいまとめとその後の展望を示していますので引用します。

本書の多くの知見は、かなり意外なものだ。たとえば、
・飢えている人でもカロリー増よりおいしいものやテレビのほうを優先する。
・就学率が上がらないのは、学校がないからではない。むしろ子供自身や親が学校に行きたがらない/行かせたがらないから。
・マイクロファイナンスは悪くはないが、一般に言われるほどすごいものでもない。
・高利貸しは悪らつな強突く張りでは(必ずしも) ない。
・途上国に多い作りかけの家は、実は貯蓄手段。

すでにお気づきの方もいるだろう。本書の多くの知見は、実は開発援助や貧困削減といった狭い分野だけに関係するものではない。もっともっと広い意義を持つ。  たとえば冒頭で挙げられる二つの発想、つまり途上国の自主性と市場に任せるべきか、それとも大きく介入して支援すべきか、という議論は、世間一般で見かけるあらゆる経済論争に登場する、自由市場か政府か、という話の一変種でしかない。


「持続可能な医療」 広井良典

制度として持続可能な医療の形を、著者が様々な観点から読み解いて提示しています。医療分野外の事例提示も散見され、専門外のことを語っているのでは…という感じもあるのですが、それで本書が読みやすくなっている節もあるので、あまり拘らずに読み進めました。

社会保障費問題は、他の研究者の本でも読みましたが、診療報酬制度のありかた(「個人診療院」優先になっているなど)はあまり知らなかったので参考になりました。
ほか、健康と長寿は、医療分野だけではなく地域コミュニティなど複数の分野連携が必要という主張は、確かにうなづけます。一分野からのアプローチでは太刀打ちできない大きな問題に、複数分野の力を集めて対応すれば社会問題の大半を占める高齢者・少子化問題への有効打になるのでは思われます。

 


「サピエンス異変」 ヴァイバー・クリガン=リード

人間の体の動かし方が、近代の2000年での社会や生活の変化で、いかに変わってきているか、そしてそれは人間の体の仕組みといかに合っていないものであるか。
それを詳細に分析した上で、結論は座ってばかりいない立って体を動かせ、たくさん歩け。シンプルで納得できて脳活しっかり考えないと達成が難しい目標。
とりあえず腰痛やなんかに悩まされてる人は、一度お読みいただくと目からうろこが落ちて、たくさん歩きたくなること請け合いです。そう、タイトルがサピエンス全史のようですが、原題は違います(Primete Change)ので大丈夫です。


「共働き夫婦 お金の教科書」山崎俊輔

「共働きスタイルの夫婦が増えているのに、共働きの夫婦のためのお金のルールをまとめた本がない、ということが常々気になっていました」という本書紹介コメントにとても共感しました(我が家は共働きです)。
家計に関する書籍・雑誌・ネット記事でも、共働きに特化したマネープランというのはあまり見たことがなく、興味を惹かれました。社会制度上かなり専業主婦(夫)家庭とは異なるところが多いのをきちんと解説しておりとてもありがたいです。
特に印象に残ったのは、自身も共働き夫婦である著者が、同じ共働き夫婦にエールを送るようなトーンで本書を書いているのだな、ということでした。
「厚生年金と退職金など、最後にメリットがたくさんあるので、育児期の大変な時期を頑張って乗り切ろう」と、保活や育児オペレーション分担などについても述べているので、マネープランだけではなく家事育児含むライフプランとしてとても参考になりました。

2019年4月の読了本リスト その1

「子どもの人権をまもるために」 木村草太
「働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる」 橘玲
「OKR 」 クリスティーナ・ウォドキー
「一生楽しく浪費するためのお金の話」 劇団雌猫、篠田尚子
「徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと」 ちきりん

働き方、お金、住宅と、家政学分野の本が固まっています。いえ、私が好きなので固まっているだけなのです。


「子どもの人権をまもるために」 木村草太(編)

さまざまな子供の権利について、各分野の専門家16名が寄稿しています。専門分野に絞っての記載なので、どれも短いにもかかわらず鋭く内容が詰まっています。

この本のコンセプトは、「子供だった頃、こんな大人に出会いたかった」

親の立場から、子どもの権利をどう考えるか、どう守るか。
子どもとして、自分の権利として何が日本の社会で与えられているのかを知る。
本書はどちらの立場からでも読めるよう、読みやすい文章で構成されていますが、その内容はひとつひとつ身近でありかつ重みのあるものです。
中学生くらいの知り合いがいたとしたら、もし全部読み切るのが厳しいとしても、学校生活に関する部分だけでも、読んでみてほしいと思いました。


「働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる」 橘玲

タイトルにもなっている、働き方2.0と4.0は具体的には下記の形です。

働き方2・0 成果主義に基づいたグローバルスタンダード
働き方4・0 フリーエージェント(ギグエコノミー)

日本が今働き方改革で実現しようとしているのは、働き方2.0。しかしグローバルスタンダードは既にその先の働き方4.0なんだ――というところから本書は始まります
「不条理な会社人生から自由になれる」と書籍副題で問題をかなり大きく立ち上げています。そして、そもそも働き方2.0、4.0といったバージョンはどういうものか、なぜそのような形で働き方が変わってきたのか、というのを、いろいろな論を緻密に組んで自説を構築していっています。こういった文章を書くときの流れは抜かりなく面白い著者で、本書でもそれは遺憾なく発揮されています。

「不条理な会社人生から自由になれる」方法もいくつか示しています。これさえやれば、という特効薬はないため、いくつかの方法を提案し、読者は可能なものを組み合わせて実行するという形になるのです。誠実に述べるならそれしかやりようがないでしょう。

個人的に面白かったのは、

テクノロジーによって生活がどんどん快適になるにつれて、すべての不愉快なものは人間関係からやってくるようになったのです。

というくだりです。
なるほど、生活環境がどんどん快適になるからこそ、人間関係が唯一最大、かつ誰にでも起こりうる不愉快(悩み)として存在感を増してくる。しかし個人が完全孤立して生きることも、まだ現実味はないでしょう。だとしたら今後求められるのは、人間関係の不愉快の発生を、極力抑えるように設計されたサービスなのではないか。そんなことを思いました。

 


「OKR 」 クリスティーナ・ウォドキー

前半がストーリー調、後半はセオリーの詳細説明という構成を取っています。本書全体が短めで、かなり読みやすいです。欧米のこの手の本はかなり分厚いものが多いという印象があり、ちょっと意外でした。
有能な人たちとモチベーションを上げて仕事をしていく手法論、でもありますが、なによりも自分が納得して仕事をするための方法論です。

ベンチャーの経営者は、会社を自分の望む方向に向かわせることができる。でも自分の向かいたい方法を見失う可能性も非常に高いんだな、と感じました。日本でいうならベンチャー以外にも中小企業の社長レベルでもありそうな気がします。
会社のビジョンを明確にし、チームがするべきことをきちんと実行していくために、限界までシンプルにしつつ要点を押さえることに特化した方法論。文章の質も情報量も読みやすいので、ビジネスの目標論として一読の価値ありです。

 



「一生楽しく浪費するためのお金の話」 劇団雌猫、篠田尚子

自分が浪費家だとはっきり認識していて、 なおかつそれをどうにかしたいと思う人に向けた本。何にお金を使うかはその人の価値観次第。それをまずちゃんと認めた上で、これだけは押さえておきたいという原則が示されているのが本書の特徴です。

家の片付け・収納界隈でも似たようなケースが発生するなぁ、と思いました。
家の中にどれだけの量のどんなものがどのように配置されているのが理想なのか、という問いの答えは、各人によって異なるはず。 それぞれの価値観によるわけです。
断捨離の本で提案されている状態、ミニマリストのお部屋が誰にとっても理想なわけではない。だからカウンターとして、こんまりメソッド(「ときめき(spark joy)があるか」という、個人の価値観に依拠した方法論)が、あれだけ受け入れられたのだと考えています。

同じように、本書は、社会的に理想の家計の形を示すことはしません。最低限押さえておくべきポイント・考え方を示した上で、様々な浪費家たるオタクたちの今後のマネープランを立て直すべく、質問に個別に答えていっています。
家計管理のうえで最低限守るべき原則を知るために役に立つので、浪費家はもちろん、そうでない人にも、おすすめできる本です。

 


「徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと」 ちきりん

住宅関係の本が割と好きなのと、 著者は独特かつ合理的な解説をするのが上手いので買ってみました。新築住宅を建てる、戸建てをリフォームする本は読んだことありますが、マンションのリノベーションというのは初めて。マンションならではの事項もたくさんあって 面白かったです。
著者もアピールしていますが、素人の立場から、こういうことがあったよということを書いているので、リフォームを依頼する側として非常にありがたい本だと思います。著者と同じように、分譲マンションでリフォームを考えているなら、まず参考に読んでみるといろんな失敗を回避できそうです。
意外だったのは、引越しが結構大変だということ、建築と移住のスケジューリングが一番の肝であるということですね。この辺りはリフォームに限らず、新築にも共通するのかもしれませんが。

2019年3月後半の読了本リスト

『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』 倉下忠憲
「魚が食べられなくなる日」 勝川俊雄
「誰のために法は生まれた」 木庭顕
「これからの本屋読本」 内沼晋太郎

タスク管理、漁業、古典作品とローマ法、本屋の経営。
なかなか良い混沌度合いです。

『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』 倉下忠憲

タスク管理を体系だって紹介する入門書です。
ただしく、これからタスク管理をやろう、ちょっとどういうものか知りたい、という人に向けた本です。
基本用語の紹介から、いくつかあるタスク管理手法を網羅的かつ中立的に紹介、そして実践に当たっての落とし穴をフォロー、そして原典となる書籍へのリファレンスも充実しており、初心者にとてもやさしい構成となっています。
網羅的かつ中立的というのは、著者個人のやり方を紹介するのではなく、タスク管理というならだいたいこのあたりが有名どころだよね、というところをきちんと押さえているところです。
しなくていい失敗は最小限に、ただし自分で試行錯誤するうえで失敗は避けられない、そして、万人に有効な単一の方法というのはなく、各人が自分に適した方法を試して見つけていくしかない、という、少し距離を取った(押しつけがましくない)優しさを感じました。

私自身の読書経験からしても、タスク管理の手法がビジネス書で紹介される場合「この方法を導入すれば、仕事がどんどん進むようになる!」というような独りよがりな論調のものが、残念ながら多数存在しています。著者は以前よりこういった本とは一線を画する、タスク管理に関する文章を書いてきているので(著者のメールマガジンを購読しています)そのひとつなのだと感じました。

ぜひ仕事やプライベートでやることが多すぎる、うまく回っていないと感じるならば本書をお取りください。タスク管理の広い世界が、整然と整理されて見えてくると思います。

「魚が食べられなくなる日」 勝川俊雄

消費者の嗜好が変わったから魚食文化が危ういのではない。なによりも、 日本の漁業の仕組みが、魚資源をありったけ獲ることだけを考えており持続可能な仕組みになっていない、ということを訴えている本です。

「サカナとヤクザ」で本書名があがっていたので読みました。「サカナとヤクザ」が漁業とヤクザの強い関係(密漁ビジネス)のヤバさを掘り下げた本であるところ、本書は、密漁ではない正規の漁業自体も、魚の数が減少しているにも関わらず漁業規制などが機能していない、ヤバい産業であることを明らかにしています。

2010年から2030年の間に、漁業生産が何% 変化するかという予測値です。世界全体では 23・6% の増加で、増加の割合は、国や地域によって異なっています。マイナス成長の国と地域は日本(マイナス9・0%) のみです

魚の価格が高くなっている、というのはなんとなく感じてはいましたが、 世界の様々な地域の漁獲高は上昇予測をされているなか、日本だけが漁獲高が右肩下がり予想というのは全然知らなかったのでびっくりしました。この現状が、あまりメディア等報道では見かけない仕組みについても、がっちりと説明しており、著者の強い危機感を感じます。

戦後すぐに作られた、獲れるだけ獲ってしまう持続性を無視した漁業が続いていれば、資源の大幅減少も当然の帰結なのでしょう。ひとまず、いち消費者としてはエコラベルの魚を探してなるべくそれを買うようにします…。

 

「誰のために法は生まれた」 木庭顕

ローマ法研究者である著者が、中高生に向けて行った「特別授業」の様子を本にしたものです。「近松物語」「自転車泥棒」などの名作映画やギリシャ悲劇を観て(読んで)、そのなかにあるギリシャ・ローマ法の概念(占有など)を探り解説していく、というやりかたが採られています。

古典を解説する、古典作品のさまざまな背景やつくりを読み解くのは、やはり楽しいです。最初の「近松物語」を読んでいるあたりでは、まだまだどのように法概念へつなげていくのかは明らかではないのですが、作品解説が面白いのでそれだけで十分読み進められます。

そしてどんどんギリシャ喜劇・悲劇、そして最後には判例と、古典作品解説で見られた内容がどんどんとつながっていくのでとても読みやすいと感じました。
個別の法律論に触れる前に、法がなにを目的にしているのかという概念を知る。まさに中高生にぴったりな内容なのかも、と思います。

題材にあげられた作品をどれも読んだことがなかったので、おいおいの宿題にしようと思います。


「これからの本屋読本」 内沼晋太郎

Web で作者が全文公開しているのを見て、なかなか面白そうだったので本を購入しました。 本一冊分の内容を Web で一度に読むのはなかなかしんどいので、やっぱり書籍が買いたくなりますね (とはいえ電子書籍版を購入しているわけですが)

本書で明らかにしたいことは三つある。

一つ目は、本と本屋の魅力。なぜこれほど厳しい、儲からないと言われながらも、皆が本屋に愛着をもち、続いてほしいと願ったり、自らはじめたりするのか。あらためてそれを明らかにしたい。

二つ目は、本を仕入れる方法。小さな本屋を開きたいという情熱をもった個人がこれだけいるのに、その方法についてはなぜかまとまった情報がない。

三つ目は、小さな本屋を続けるための考え方。ここまでを前半の基礎編とすれば、ここからは後半の実践編といえる。

本屋を経営したいひとには、二つ目と三つ目は必須の情報でしょう。 ただ本が好きなだけの私でも、一つ目は興味の真ん中で面白かったし、二つ目と三つ目は業界の裏側を覗くような気分で読んでいました。

著者は、「昔は情報を得るためには本屋に行く必要があり、人は必ず本屋に行ったが、 今は情報の入手先が他にもたくさんあるので、本屋に来店する人は昔よりも減った」「だからこそ、本が好きな人が目的をもってわざわざ来店してくれる店作りをする必要がある」と述べています。

確かに今は、インターネットやその他で情報を得ることができるので、昔よりも何かがあったらとりあえず本屋に行くという機会は、自分自身の体験としても確実に減っています。著者が言うように、おしゃれな雑貨屋さんに行くように行けるような本屋、というのは確かにいまそう多くはありません。
著者の経営する本屋も含めて、今あるユニークな本屋というのが具体的に紹介されていたので、今度尋ねてみようかな、とも思いました。


発行部数減少とそれに伴う出版業界の縮小という現状は、決して明るい材料ではありません。でも出版不況と業界の危機を声高に訴える(そしてそれに対して何か対応策を示すわけではない)言説をうんざりするほど見かける中で、本書が、まだまだ本屋と紙の本が文化としてしぶとく生き残る可能性があることを教えてくれます。本の未来のあり方としてありうる、そして明るい可能性を見せてくれました。

2019年3月前半の読了本リスト

「薬物依存症」  松本俊彦
「折りたたみ北京(現代中国SFアンソロジー)」ケン・リュウ
「ヒットの設計図」 デレク・トンプソン
「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」 清水久三子

硬軟織り交ぜつつの、ラインナップとなりました。

 「薬物依存症 シリーズ【ケアを考える】」  松本俊彦

「日本では、だいたいの人は、「生の」薬物依存症者をじかに知ることもなく、薬物依存症の何たるかを直接知る機会を持つことはありません。つまり、多くの人は、薬物依存症者に対するイメージを、どこかで聞いた伝聞的な情報をもとにつくりあげているのです。」

確かに、依存症患者は私の近くにも居ません。伝聞的な情報により実態と異なるイメージが社会で一般化しており、その状況が、当事者の治療においてもよくない影響を及ぼしている、というのも納得できます。本書を読み終わったすぐ後に、芸能人が薬物で逮捕される事件があり、その報道の仕方や対応を見て、著者の主張が間違っていないことを、強く感じました。

「同じように薬物に手を染めながらも、なぜ一部の人だけが薬物依存症に罹患するのか」──の答えは、おのずと明らかではないでしょうか。それは、その人が痛みを抱え、孤立しているからです。だからこそ私は、薬物依存症の回復支援においては、薬物という「物」を規制・管理・排除することではなく、痛みを抱え孤立した「人」を支援することに重点を置く必要があると信じています。

社会の多数派が、正確な実態を知らないがために、少数派に対して偏見を持っていたり、実際に不利益な扱いをされていたりする。本書を手に取ったきっかけである「貧困を救えない国 日本」 でも、貧困者に対する同じような状況が問題としてとりあげられていました。少数派に該当するのが、貧困者でも、薬物依存症患者であれ、同じような状況が日本では発生しているのではないかと思います。

自分が何となしに持っていたイメージが、いかに実態と異なっているか。自分が、薬物依存症患者者ではない多数派であるからこそ、多数派が少数派を踏みにじることがないように、少数派でしかも普通のひとよりも「弱い」部分のある薬物依存症患者の置かれた実態を正確に知っておく必要がある。
回復支援の立場からの自己反省も込めて書かれたであろう本書が、鋭く訴えてきているように感じました。

 

 

「折りたたみ北京(現代中国SFアンソロジー)」ケン・リュウ

中国SFの7作家13作品の短~中編のアンソロジーです。中国SFの多彩さを味わえる1冊です。Rebuild(ポッドキャスト番組)で名前を聞いて気になって読んでみました。
小難しいことを考えずに娯楽小説としても楽しめますし、作品の背後にある、文化や価値観、それらが及ぼす効果を考えると、とても広がりがあります。
14億の人口と広大な大陸を擁するアジア地域の国での文学の多様さが楽しめます。

私が好きなのは、「折りたたみ北京」「円」「童童の夏」「麗江の魚」あたりです。「折りたたみ北京」は、残酷ともいえる社会性を持った設定の、面白さと近未来感。
「円」は、歴史ものと現代性の融合。
「童童の夏」は、もうすぐ成立しそうな技術と、それによりひとが変わっていく様を、少女の視点から眺め。
「麗江の魚」は、サイバーパンクがほんの少し香る、幻想的なひととき。

SFを読んで抵抗のない方であれば、本書を楽しめると思います。

 

 

「ヒットの設計図」 デレク・トンプソン

原題は「Hit Makers」。ヒットを作り出した人たちがどういう人で、それぞれどのような法則に沿ってそれぞれの作品・製品を作っているのか。それを通して、ヒットというものが、人のどのような性質によって生み出されているのを明らかにしていっている本です。

残念ながら(?)、ヒット商品が作れる法則は本書では示されません。むしろ「ヒットするものはいくつかの法則を満たしていることがわかるが、これをすれば必ずヒットする、という法則はない」というのが最終的な主張です。

しかし、少なくともこれを満たしていなければ現代でヒットするのは難しい、という条件については、本書はとても丁寧に説明しています。
ヒットという現象は、人間が起こすものです。つまりヒットの法則を探るとは、ひとがどのようにモノやサービスの好き嫌いを判断し、それを他の人に伝え広げるのかを、解明していくことなのです。

人は個人的に好き嫌いの判断をするだけではない。人気の出たものを買いたくなる「影響される生き物」だ。しかしそれだけでもない、自分はこういう人間だからこれを買うという「自己顕示したい生き物」でもある。

モノやサービスを作ったり売ったりする人にとってもちろん参考となる1冊です。
それに加え、SNSなどで個人が情報を他者に伝えるのが日常のこととなった今、その仕組みを知ることができる本書は、誰にとっても有益なのかもしれないと感じました。

 

 

外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」 清水久三子

ビジネス雑誌で紹介されていたのをきっかけに、参考になりそうだと思って買いました。会社で資料を作ることがあるのなら、まず最初のセオリー集として、本書を読むととても役に立ちます。もっと早く読んでおけば、もっと見やすい資料が作れたのに、と思うことしばしばでした。
セオリーを説明した後に、具体例として、ビフォア・アフターの資料が載っているのが良いです。同じ内容が、見せ方を変えることで、どれだけ読みやすくなるかがはっきり分かります。

文章をわかりやすく書くためには、結城浩「数学文章作法」。図表を使った資料をわかりやすく書くためには、本書。 この2冊が現在のおすすめです。

2019年2月後半の読了本リスト

「賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか」 井出留美
「知性は死なない 平成の鬱をこえて」 與那覇潤
「「研究室」に行ってみた。」  川端裕人
「勝間式 超コントロール思考」 勝間和代


「賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか」 井出留美

恵方巻など、食品ロス問題を時々目にするようになってきたので、全体感をつかみたくて買いました。
日本の食品ロス632万トンのうち、約半数(302万トン)は消費者由来、残り(330万トン)が、飲食店や食品メーカー、販売店など事業者由来。
半分は私たち消費者の直接的な食品廃棄、残り半分も、結局は私たちが購入したり外食する際の行動が原因なのだそう。

だから、食品ロスを減らすためにやるべきことは、スーパーやレストランを非難することではない。消費者個人で買い物の際にできる対策等がたくさんあり、それを消費者として各人が実施していくことが効果を出す、という極めて真っ当な論を丁寧に展開しています。「消費者として自分が何をすればいいのか」が明確に提示されているのでとても良かったです。

消費者が動きを変えれば、消費者のぶんだけではなく・事業者にも影響を及ぼすことができる。それは消費者にとって、個人でできることが現実を変えられるという希望であり、個人でやらねば現実が変わらないという責任でもあります。本書で得た知識を使って、今後食品をムダなく取り扱おうと思います。
あとは著者が指摘していた通り、買い物の仕方や、食べられるものの見分け方は、義務教育の家庭科の授業にぜひ盛り込みたいです。食べ物の栄養の勉強や、簡単な調理やお裁縫と同じように、買い物の仕方や食べられるものの見分け方は、十分実践的で役に立つ知識でしょう。

 


「知性は死なない 平成の鬱をこえて」  與那覇潤

大学教授であり「中国化する日本」で話題にもなった著者。その著者のうつ病経過に関する本ということで、なんとなく心配をしつつ手に取りました。
前半の、うつ病の症状、社会がうつ病にたいして持っている偏見に関する部分は、著者が実際にうつ病の患者として見聞きした体験なので、とてもリアリティがありました。偏見には自分でも思い当たる節があり反省する次第です。

著者は、自分に起きたうつ病の経過で、 能力が低下し、能力低下を自覚し、自分には価値がないと思うことで生きる気力が失われる、と述べていました。確かに、もし、自分で自らの価値だと思っている能力が失われていく、という体験をしたら。自分自身の価値そのものが失われていくような、強烈な喪失感に襲われて、生きる気力が失われるというのもわかるような気がします。

後半は、 知性の象徴である大学の中で著者が見聞きした、知性の敗北と呼ばざるを得ない様々な事例、世界で知性主義が敗北してきたという近代20世紀の歴史を挙げて、知性の敗北とこれからの展望について語っています。
著者が勤めていた大学での様々な事例は、大学にある程度の敬意を払っていた私にとっては相当にショッキングでした。社会全体で知性が敗北する趨勢にあるなかで、大学も例外ではないことが、内側から暴露されてしまったわけで。
ただ、大学を退職した著者が、大学の外にも知性ある対話ができる場がある、と理論や希望的観測だけでなく、自らの経験に基づいて最後に述べてくれています。それが、著者ご本人と、この知性の敗北した社会で生きていく私たち、両方にとってのパンドラの箱に残った希望のように感じます。

 


「「研究室」に行ってみた。」  川端裕人

研究者とは何をしているのか、どんな経歴の人がいるのか、理系研究者数人にインタビューした内容をまとめている本です。中学生や高校生でこれを読んでいたら、こういった、普段なかなかメディアでは取り上げられない、接することの少ない分野を目指すきっかけになるのかもしれませんね。
中高生以外にも、一般の人に研究者の実態を知ってもらう、ひいては研究への費用投下への理解を進める助けになるんじゃないでしょうか。本書のようなコンセプトで、文系研究者編もあったらいいのに、と思います。

 


「勝間式 超コントロール思考」 勝間和代

いつも通り、勝間節全開の本です。自分はどういう原則に沿って、具体的に何をどうやっているのかを、仕事・家事・健康面と幅広に説明してくれています。
仕事だけでなく、生活面(家事など)にもかなりページを割いており、家事と仕事の両立に悩む人にも役に立ちそうです。ただ、勝間さんが自分のことを語る本にはだいたいそうなのですが、良くも悪くも極端な例です。まるまるマネするというより、最先端技術での見本をみるような気持ちで読むのが精神衛生上よろしいかと思います。要は、完全コピーはできないけど、いろいろ参考になります。

面白かったのは、本書で「(仕事をする際)置かれたところで頑張ろうとせず、自分に向いたところで頑張れるようにしたほうが良い」と勧めていたこと。これは橘玲「もっと言ってはいけない」でも提示されていました。日本社会の現場を知る超リアリストである、勝間和代さんと橘玲さんが口をそろえて同じことを言っているというのはなかなか示唆に富んでおります。

2019年2月前半の読了本リスト

冊数少なめですが、こんなときもあるさ、な今回。行ってみましょう。

「サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~」鈴木智彦
「もっと言ってはいけない」  橘玲
「だから私はメイクする」  劇団雌猫


「サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~」 鈴木智彦

「アワビもウナギもカニも、日本人の口にしている大多数が実は密漁品であり、その密漁ビジネスは、暴力団の巨大な資金源となっている」という実態を、ルポライターの著者が、築地市場や密漁の当事者に体当たり取材して、生々しく描写しています。

密漁品がこれほど多く(上記の品目では半数近いものもある)出回っており、それに暴力団が深く関わっているということ自体がかなり衝撃的でした。
しかもそれらは、堂々と市場で卸され流通に乗ったり、観光市場で売られたりしている。これほど密漁品が横行する原因は、規制の問題もあるけれども、需要があるため高値で売れる、という実態あってのこと。消費者である自分も決して無関係ではないのだと思い知らされました。

ウナギの絶滅危惧種指定と、漁獲量、輸入量についても詳細が記載されており、そのあたりをきちんと知りたい人にもお勧めです。とりあえず本書でも提示されているように、少しでも保護につなげるためウナギは専門店以外では食べない(スーパーやコンビニで買わない)ことに決めました。


「もっと言ってはいけない」 橘玲

知識社会の仕組み、遺伝の中でも特に人種や性別などについて。様々な「残酷な事実」である知見を紹介しています。
前著「言ってはいけない 残酷すぎる真実」が、遺伝・外見・ 教育、といった関心ある人が多いトピックについて述べていたのと比べると、本書は、キャッチーさ、わかりやすさを代償とした代わりに、より深く掘り進めた続編だといえるでしょう。

前著からメインテーマとして通底しているのは、リベラルが世界中で掲げてきた「人間は誰しも平等で、努力すれば必ず報われる」という主張は、実は様々な学問分野で正しくないことが証明されている、ということです。
著者はこれを、純然たる科学的な事実として伝えており、それ以上踏み込んだ意見等は述べていません。科学的に証明された事実に、自らの解釈を加えることは、あえてしていないのでしょう。
これらの新しい、しかし受け入れがたい知見をもとに、いかに「平等であること」を考えるのか、「残酷な社会」に対してどのような対策を立てるのか、それを求め考えていくことを、読者に問いかけているだろうと思います。

学問的に証明された現実がどれだけ残酷で厳しいものだとしても、正しい現実認識をまず持たなくては始まらない。正しい現実認識がまず出発点だ、という点においては、「 ファクトフルネス」と本書とは、方向性は正反対であれど同じ認識のもとに書かれた本だ、と言えるのかもしれません。

 


「だから私はメイクする」 劇団雌猫

「浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―」の続編に当たる本書も、面白そうなので買ってみました。『さまざまなジャンルのおしゃれに心を奪われた女性たちが、ファッション・コスメへの思い入れや、自身の美意識をつまびらかに綴り、それぞれが「おしゃれする理由」を解き明かす匿名エッセイ集』(本書紹介文より)です。

様々な立場の、様々な意見の、様々なメイクの女性達の綴った言葉を読んで感じるのは、女性が「メイクする」( 本書では、化粧だけではなく、髪型、服装も含めています) のは、社会に対して自分はどういう立ち位置を取るか、という問題と切っても切り離せない関係にあるのだ、ということです。
自分はそうではないんだけれども、その気持ちはよくわかる、というケースが「浪費図鑑」に比べてかなり多かった気がします。例えば「会社で周りの男性に、自分のメイクやファッションについて無神経に批評めいたことを言われ、それがいやなので、会社では地味で目立たないようにして、会社が終わったら自分の好きな格好をする」というケースなど。自分ではそういった経験はないのですが、もし周りから同じように言われていたら、同じような行動に出ていたかもしれないな、と共感してしまいます。

もしも女性のメイクや服装に、無神経な発言をする人がいたら(男女問わず)、本書を差し出すか叩きつけるかするといいかもしれません(冗談です!)。
少なくとも、女性が身繕いをする、おしゃれをする、という裏には実に様々なものがあるということは、本書で実感できると思います。

2019年1月後半の読了本リスト

「老いた家 衰えぬ街」 野澤千絵
「FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」 ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド
「貧困を救えない国 日本」 阿部彩、 鈴木大介


「老いた家 衰えぬ街 住まいを終活する」 野澤千絵

前著「老いる家、崩れる街」は、都市計画や住宅政策をどう見ればいいか、実態は今どうなっているかというのを、 一般にわかりやすく説明していました。
本書はそこからより具体的なレベルに進み、新聞などでも目にするようになってきた「空き家問題」の実態を説明し、具体的な対応策を提示しています。

対応策は、自治体やNGOといった組織・政策レベルでやることと、 個人のレベルでやることとがバランスよく盛り込まれています。マクロとミクロ、いずれの立場で読んでも得るもの多くおすすめです。

防災・減災の観点からも、 土砂災害などのリスクが高く居住に適さない土地では、計画的に土地利用を止めていく ことも必要

この著者の言が印象に残りました。日本の近代人口増加の過程で、居住リスクが高い、洪水や崖崩れが起こりうる地域も、宅地指定し住宅を建てていたケースが結構あります。
また「防災・減災の観点での計画的な土地利用の停止」は、人口減少によりそもそも住宅が減っていく地域での、緩やかで住民にも受け入れられやすい対策としても価値が見いだせそうえす。どこの村や町でも、自分たちの集落や町をなくすことに、前向きにはなれないでしょう。でも自分の家族や近所の人が減る中で、防災の観点から、相続などを機会にリスクの低い所に引っ越しするというのなら、心理的なハードルはかなり下がるのではないかと思います。

 


「FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」
ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド

言わずと知れた(?)ベストセラーです。世界の見方や認識が、事実と異なる人があまりにも多いことに気づいた著者が、それらの事実を伝えると同時に、10の思い込みという観点から説明をしています。

本書は、ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」の実践編、人間の持つヒューリスティクスを世界の認識という事実側から検証した本、 といえるでしょう。

本書冒頭の「チンパンジークイズ」で、自分の世界の認識が、いかに実態と異なるかを実感します。そしてその原因であるヒューリスティクスがどのようなものなのかをじっくりと追って行くのです。考え方が変わる、パラダイムシフトが起きた、そんな感覚を得られます。

さらに世界の状態と人間の性質について理解した後、つまり本を読み終わった後に、具体的に自分たちはどう振る舞うべきなのか。それについてもよい塩梅の抽象的に提示しています。それは「全世界レベルの事実を、正しく認識する。それに基づいて日々の生活を送り行動する」という大きな指針です。

Post Truthと呼ばれる今だからこそ、知っておきたい、読んでおきたい一冊です。

 

 

「貧困を救えない国 日本」阿部彩、鈴木大介

経済・社会政策の面から子どもの貧困を取り上げてきた大学教授と、「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会・触法少年少女らの生きる現場の取材を続けてきたルポライターによる、日本の貧困現状についての対談本です。

 

貧困は近年メディア等で報じられるようになってきてはいます。しかしメディアが報じる内容を受けた一般の認識と、二人の知る貧困の現場とは、まだ乖離が大きいことを、具体例や統計数値などを挙げながら指摘し、対応方法を忌憚なく話し合っています。
対談形式なので、知識があまりない側からしても読みやすかったです。

印象に残っているのは、貧困者に対する無理解・差別など、単にお金をあげるだけでは解決しない問題が、貧困者の周りにはまだまだ山積している、ということです。具体的な事例は、本書にたくさん挙げられているのでそちらを見ていただきたく。

ベーシックインカムの推進論のひとつに、お金をあげれば解決する貧困が、ベーシックインカムでは解決できるというのがあります。それは間違っていません。しかしベーシックインカムがあれば貧困対策は終わるわけではない。むしろ社会福祉としてはベーシックインカムが行き渡ったところでそこからこぼれてしまう人々をどう支援するかが求められているのだ、と強く感じました。

2019年1月前半の読了本リスト

「50(フィフティ) いまの経済をつくったモノ」 ティム・ハーフォード
「蟻と蜂に刺されてみた」 ジャスティン・O・シュミット
「0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書」 落合陽一
「ロード・エルメロイII世の事件簿9 case.冠位決議(中) 」三田誠

良い感じにジャンルがばらけました。これくらい雑ジャンルで乱読していくのが好きなんですが、いつもそうはいかないですね。
従来利用していた本のリンクサービス(ヨメレバ)が一部サービス変更したため、試行錯誤で今回はamazonリンクを使用しています。
もっと書影が大きくてアフィリエイト感がなく、Kindle購入にもリンクできるサービスはないものでしょうか。ないものねだりでしょうか。


「50(フィフティ) いまの経済をつくったモノ」
ティム・ハーフォード

発明を50あげ、それらについて1つずつ説明を加える、オーソドックスな構成の本です。日経新聞の書評欄で見かけて買いました。
本書で特徴的かつ面白いのは、発明されるまでではなく、発明されたモノが「その後どのように世界を変えていったのか」に焦点を当てて描かれているところ。
発明から数年から数千年以上経った今現在でなければ分からない、社会的影響について考察されています。

その特徴がよく現れているのが、iPhoneの項目です。本書はiPhoneを、スティーブ・ジョブスの作ったモノとして紹介するのではありません。iPhoneは17の重要な発明を含んでおり、それらの発明すべてが、技術として成熟する過程でアメリカ政府の関与を受けていたのだとし、それらを説明しているのです。
このように発明(技術)が、はるかな過去から連綿と積み上げられており、いまの経済ができあがっている。私たちが新しい発明と認識しているものも、その積み上げの恩恵の上に成り立っている。本書を読み終わると、とても腑に落ちるようになります。

 


「蟻と蜂に刺されてみた」 ジャスティン・O・シュミット

2015年のイグ・ノーベル賞に選ばれた、ハチやアリに刺された痛さを示す「シュミット指数」。名前からもわかるとおり、著者が提唱者本人です。
本書ではその「シュミット指数」の詳細がわかります。巻末には全シュミット指数リスト(著者が刺されたハチとアリのリスト)も掲載。詳細読んでるとむずむずしてきます。
構成は、前半と後半に分かれています。刺針昆虫(刺す針を持っている昆虫をこう呼ぶのだそうです)全般の理解に役立つ背景知識や理論を紹介。後半では刺針昆虫をいくつかのグループに分け、グループ毎に詳しい説明をしています。

研究者にはよくありますが、著者もハチやアリをこよなく愛しており、刺されても噛まれても全くへこたれることなく、まだ自分の会ったことのない(=刺されたことのない)種を求めて世界中のさまざまなところにとんでいきます。先日読んだ「昆虫こわい」(著:丸山宗利)とほぼ同じですね。いや、国と研究種が違うだけで同じ昆虫学者なので、同じなのは当然なのかもしれません。
単純に、知らないことを知るのはとても面白くて楽しい、ということを思い出させてくれる本でした。

 


「0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書」 落合陽一

タイトル通り「学ぶ人と育てる人」のための教科書、でした。
社会人や大学生(学ぶ人、といって思い浮かぶターゲット)に向けた本でもありますが、 子供の教育方針についていろいろと語られてもいるのです。今まで著者の本で子育てに関する話はあまり見たことがありませんでしたが、これがなかなか面白い。
内容も納得できるし、適度に具体的で、適度に抽象的なので、育児方針として取り入れやすそうです。

たとえば、習い事をたくさんさせる代わりに、様々な家庭教師に自宅に来てもらう。ネットがあり人間関係が作りやすい現在では、習い事と家庭教師の金銭的コストはあまり変わらないのではないか、とあり目から鱗でした(実際に調べてみると、出張ピアノ講師のサービスなども割と充実しているようでした)。

 


「ロード・エルメロイII世の事件簿9 case.冠位決議(中)」 三田誠

いや、ここまで1エピソード上下巻でやってきたシリーズなんですが、ここにきて上中下3巻になりました。
真ん中の巻なので、最終巻の盛り上がりに向けて、 着々と下準備が進められています。中だるみ感がないのは、さすがといったところでしょうか。最終巻が楽しみです。

2018年12月後半の読了本リスト

「ビジネスモデル2.0図鑑」 近藤哲朗
「あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続」 宮部みゆき
「TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか」
レイチェル・ボッツマン
「ユーチューバーが消滅する未来」  岡田斗司夫

TRUSTが例によって分厚かったですね。一番分厚いのは宮部みゆきですが、小説は分厚くても問題ないので。

 

出版が2018年11月ですね。社会人必携のリファレンス用図鑑です。(図鑑なので自宅においてパラパラみるイメージ)
見開き1ページで1企業(ビジネスモデル)を紹介しており、本書を眺めるだけで面白いビジネスモデルを持っている企業を100個知ることができます。利用してみたいなと思うサービスもたくさんありました。近所の本屋で偶然見つけてよかったです。リアルな店舗はこういうことがあるからやめられません。

昨年は、「GAFA」「Amazon」など1つの企業(ビジネスモデル)について分析を加える本が出版され話題になりました。こういった本は、複数冊読むのにはなかなか時間がかかります。あまり自分が求めていたことが書いていなかった…というミスマッチが発生したりするとなお悲しいものです。
まず世の中にこういったビジネスモデルが既に存在することを知るためには、本書はとても良い入門図鑑です。
また、本書は冒頭で、ビジネスモデル図の切り口として「ソーシャル、ビジネス、クリエイティブ」という3つの観点を使うことや、具体的な図の作成ルールが丁寧に説明されています。本書内のビジネスモデルを読む手引きだけではなく、読者が今後自分で本書にあるようなビジネスモデル図を作成することができるようになっています。

図鑑として眺めるもよし、ビジネスモデルを作成して生かすもよし、応用方法がたくさんあり多くの方におすすめしたい本です。

 

 

タイトル通り、三島屋シリーズ5冊目です。相変わらずなかなかの切れを見せる個別中編が続きます。さらにシリーズ上の大きな動きとして、聞き手役が交代します。
宮部みゆきは本シリーズの他にも「人の業」と「怪異」とを結びつけた作品を多く発表しており、「人の業」をメインモチーフにした作品、「怪異」をメインモチーフにした作品の両方があります。本シリーズは「人の業」がメインに据えられており、本巻では特に冒頭の「開けずの間」でそれが顕著です。げに恐ろしきは人の業。

百物語がモチーフになっているので100話まで本シリーズは続けたい、と著者が別書籍掲載のインタビューで述べており、まだまだ続きが楽しみなシリーズです。

 

 

現在までの「信頼」のあり方と、今後について分析した本です。
「ローカルな信頼、大規模制度への信頼、分散された信頼」 の3つに分けています。そして現在、「制度への信頼」から「分散された信頼」への移行が起こっており、その具体例がトランプ大統領の台頭やブレグジットなのだと著者はいいます。
人が何を信頼するのかは近年大きく変わってきた、という感覚が私自身にもあり、信頼の歴史とその解説は面白かったです。後半部分のAIへの信頼、今後の未来予測は、前半よりも少し切れ味が鈍った印象でした。

ちなみに、サブタイトルは、最先端企業信頼攻略について述べているようにつけられていますが、あくまでこの手の本によくある詳細な具体例としていくつかの企業が取り上げられているだけです。 企業分析をしている本ではないので、その点はご留意いただければと思います。

 

 

ユーチューバーの話をするのではなくて、今後の社会がどうなるかという未来予測。「評価経済」など、この人の未来予測は意外と当たります。今回もなかなか面白い。 エンターテインメント、特に YouTube 関係に関しては具体的に踏み込んでいるので、その辺りに手を出している人には特におすすめしたい本です。

ただしエンターテイメント以外の事項は少し掘り下げが浅い印象です。本書はいろんなところで著者が話した内容をまとめているという作られ方をしているので、仕方ないのかもしれません。もっと掘り下げて面白い分析を加えられる著者なので、今後、本書内容を熟成させた新しい著作が出るのを楽しみに待ちたいです。

2018年12月前半の読了本リスト

「昆虫こわい」 丸山宗利
「情報生産者になる」 上野千鶴子
「新しい二世帯「同居」住宅のつくり方」 天野彰
「夫婦の家」 天野彰
「スレイヤーズ16 アテッサの邂逅」 神坂一

以上5冊。先月の反動か気楽に読む本が多かったですね。昆虫と論文と住宅と思い出。

2018年は夏休み子ども科学電話相談の虫部門担当、 国立科学博物館の昆虫展などで、著者の名前をよく見ましたので、一度著者の本を読んでみようと思いました。写真の昆虫は色も綺麗なので、ぜひカラー版をお勧めします。

研究対象(昆虫)が好きでしょうがない研究者による、面白エッセイです。 研究対象に過度の思い入れを寄せ「ない」研究者の面白エッセイである「鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ」となんとなく比べながら読んで楽しかったです(特に採集時のテンション)。エ読み物としての面白さだけでなく、昆虫のきちんとした学名や収集場所の詳細も載っていますので、昆虫ガチ勢な皆様(?)にもきっとご満足いただけるのではないでしょうか。

著者の主な採集標的はハネカクシとツノゼミです。昆虫展でハネカクシとツノゼミの展示を見ることができましたが、それまでは間違いなく知らなかった昆虫でした。展示でも思いましたが本書内の写真を見ると、ツノゼミって本当にいろいろな奇想天外奇天烈なカタチをしています。

人があまりいない地域に行って様々な種の採取を行う、昆虫学者はやはり現代の冒険者です(小笠原に向かう鳥類学者もそうでしたが)。ただ、原生林は生物種がそれほど多くなく、ほどよく開かれた森に多種の昆虫が生息しているそうで、それもなんだか面白いところだなと思いました。

 

 

東京大学上野ゼミでの実践に基づく、論文の書き方・レビュー・コメント方法を詳細に説明する本です。著者は、タイトルにある「情報生産」の一つの合理的な完成形を「論文」においており、その詳しい方法を説明しています。

あとがきにて著者は、本書の方法論は「論文」に限って間口を狭くするのではなく、広く一般にも開かれる「情報生産」と位置づけたいとしています。

しかし、最初から6割がたまでは論文を「書く」方法論の説明です。そのため、論文をこれから書く予定はない読者である私は、本書を読む意味を疑い、正直途中で脱落しそうでした。

ところが14章以降の内容は、一転し、論文を書かない立場からしてもかなり興味深い内容です。論文ではなく、およそ一般的な文書(プレゼン含む)の場合にも、どんなことを考えて読むもしくは聞けばよいのか、自分の疑問をどう整理して向き合えばいいのかが、明確に、そして易しく説明されているのです。

本書は、どんな立場の読者であっても、最終部分はとても面白く、タイトルに沿ったと判断できそうな内容です。しかしそこにたどり着くには、タイトルから連想されるとは少々異なりしかも長い「論文の書き方説明」を越える必要があります。

タイトルをきっかけに本書を読んでいった私は、ちぐはぐな印象を受けました。

本書名を「論文の書き方・コメントの仕方」としたくない著者の意図はわかります。でも、タイトルを一部変える・本書構成についてあらかじめ説明するなどの方法で、読んでいる途中に混乱しないように工夫をしたら、本書はもっと楽しく、挫折しそうにならずに、読めたと思うのです。

終盤の内容が面白かっただけに、よけいに惜しいなと思う1冊でした。

 

 

いずれも、戸建て住宅を設計してきた建築家による、戸建て住居を建てる際のアドバイス本です。以前放送されていたテレビ番組「劇的ビフォーアフター」をよく視聴していたことを思いだしページをめくってみたところ良さそうなので読んでみました。家を建てる予定が全くない私にもとても面白かったです。

二世帯同居住宅の個別ケース(間取り図などの説明付き)を紹介しつつ、本書は進んでいきます。まず面白いのは、住宅を設計する過程が、親世帯・子世帯という独立した生活スタイルを持っている2世帯が、どうやって共存するのかを探る過程となっていることです。
住宅を設計するとは、家の中で家族がどう生活するかを想定してもらい、それに併せて構造や間取りを提案し決めていくことである、と著者はいいます。
そのため、特に二世帯同居住宅においては、親子それぞれの世帯の生活の共有・個別部分を明確にし、親子世帯がどのように関わって生活するのかを、住宅の設計時点できちんと整理する必要がある。そうでなければ、 住宅が完成し生活を開始した後に問題が噴出し、結局その住宅での暮らしが良いものにはならないのだそうです。

それで結局どうなるのかというと、建築家である著者が親子それぞれの様子をうかがい、時にはなだめすかして本音をなんとか聞き出しつつ、同居住宅のアイデアを出していくのです。これが、家族ごとに、生活時間帯の違いや騒音、親子の距離感などといった色々な問題がホームドラマのごとく展開されております。

そしてそれらの親子のいざこざを、間取りや機能でなんとか工夫して著者が解決しようとする。面白い1話完結ホームドラマを見ながら、住宅について詳しくなれる、そういった娯楽的に楽しませてもらいました。

 

 

その昔リアルタイムで読んでいたシリーズのため、当時の読者ホイホイされました。

著者も当時から別作品との比較で言っていましたが、このシリーズは戦闘シーンとキャラの濃さで出来上がっています。当時と変わらぬ読み応えなので懐かしみたい方はご安心のうえご賞味ください。