新しいタイプの経営者の自伝 『シュードッグ』、『行こう、どこにもなかった方法で』

ビジネス書ではない小説的な経営者の自叙伝。アメリカ版がシュードッグ(ナイキ創業者)、日本版が「行こう、どこにもなかった方法で」(バルミューダ創業者)による本です。
出版上特に関連性はないであろうこの2冊。でもこの2冊を読んで、経営者自叙伝の分野で「小説のように書く」という変化が出てきているのかな、と感じました。

会社の経営層の著名人が書く本については、自身の体験をつづりつつその体験の解釈(私はこうしたから成功した、失敗した)がつけられているものが多いという印象があります(それほど経営者著書を読んでいない個人の印象です)。
それに反してこの2冊は、読んでもビジネスで成功するコツなんかはたぶんわかりません。「あのとき何があったか」のような分かりやすい起承転結やストーリー的な構成がされているわけでもないでしょう。特に「行こう」は著者の父母の話から生い立ちの話にもかなりの紙面が割かれていたりします。

ただその分、この2冊は著者の実感・体験により近いのではないでしょうか。
1人の成功例から教訓を引き出そうとすることには無理があるのだし、会社を作って起こったできごとはいろいろあるけれども、体験した本人のなかでストーリーとして完結しているわけでもない(2人ともまだ現役の経営者ですから)。なにか一般的なことがいえるとしたら、ふたりともつくっているモノについてはずっと確固たる信念があったことくらいでしょうか。
体験の解釈抜きで、淡々と体験をつづっている本。それはそれでよいものだな、と感じました。解釈部分に感じる押しつけがましさがないし、著名経営者がしてきている体験は事実だけでもいろいろと面白いので、本の内容は充実します。

2冊通して読んで印象に残ったことはふたつ。
経営者の悩みになるのは商品をつくることそのものではなく、資金調達であるということ(ふたりともずっとキャッシュの調達に疲れているのが伝わります…)。
それと、成功の裏には数多くの失敗が隠れていて、有名になるひとは紙一重でなんとか成功してきていたのだなということです。特に成功と失敗は、最初から上手くいったわけでもないし、ずっと上手くいき続けているわけでもなんでもないというのがひしひしと感じられました。