『GE 巨人の復活』(中田敦)

本書は、ジャック・ウェルチの作り上げた20世紀の巨大企業GE(ゼネラル・エレクトリック社)が、21世紀の今、ハードとソフトの製造業に転身した詳細を解説しています。

80~90年代の企業のセオリーであった「ソフト開発は外注に出す」を実行していたGE。それが自社にプログラマを必死に集め、基幹システム・アプリケーションとモノをセットにして作っている。そこから作りだされるのは、IoTの使用を想定して作り込まれた「モノ」という、ソフトウェアサービスとモノが一体となった競争力の高い商品です。競争力の源泉となるソフトウェアを開発するために欠かせないものとして、プログラマの人数を確保するだけでなく、全社にシリコンバレー流の組織運営を徹底的に取り入れている。簡単にまとめればそんな内容になります。

古い(創業が前世紀であり、製造業という古い業界に属している)大企業が、今を生き残るために、デジタル分野へ主要戦場を移し、シリコンバレー流の組織運営を取り入れている。それも一部ではなくグループ全社で徹底的に実行している。その事実を知らなかったので興味深かったです。
GEという超有名企業でこんなにも大きな変化が起こっているのだとしたら、同様の転身を図る企業はいるのか、もしくは今後出てくるのか。それが気になりました。
本書で語られたGEの変化が、GE単体の成功談にとどまるのか。それとも製造業全体に波及していくのか、と言い換えてもいいかもしれません。
私はこの流れは少なくとも製造業分野内の一定の範囲には拡がると感じています。競争力のあるモノとは、付加価値があるモノです。そしてIoT・デジタルの特性を活かした業務分析や運営が可能、というのは歴史上今はじめて可能になっている付加価値です。その付加価値を先駆者としていち早く押さえたモノが、競争力を持つのは間違いないでしょう。となると製造業が主要産業のひとつである日本でも、本書が紹介したGEと同様の変化を遂げる、もしくは既に変化を遂げた企業が台頭してくるのではないでしょうか。そしてその際にはGE(と本書)は先例として引き合いに出されるのでしょう。

製造業部分だけではなく、シリコンバレー流を徹底的に取り入れている組織運営の話も面白かったです。とかく新しい組織運営・新しい社風への転換は難しいといわれるなか、GEという巨人の先例は、今後同様の転換を図る経営者にとっては、ひとつの大きな道しるべになるものです。
製造業業界や、IoTが今はあまり関係なさそうな大きな組織に属している人は、先端でこんな面白い事例が起こっていることを、もしかしたら自分たちが向かう先かもしれないその事例を、本書でぜひ詳しく知ってみて損はないと思います。

そうそう、ひとつ卑近だけど大事なおすすめポイントを。本書は著者が日本人のせいか、コンパクトなページ数にまとまっておりとても読破しやすいです。アメリカで出版されるこの手の本は事例満載で分厚くて、全部読むのはなかなか大変な(なので読み飛ばしたり途中で挫折しそうになる)場合が非常に多いのです。その点でも本書はとても新鮮でした。

そういう意味でも読みやすいので、ぜひ一度手にお取りください。おすすめです。