『楽しく学べる「知財」入門』(稲穂健市)

武器や防具になる教養が手に入る本だなぁ、というのが一言での感想です。

本書は一般のひとが読めるように日本の知財法制度の解説をしています。具体例豊富に紹介されているので読んでいて楽しいです。表紙にある「C」マーク(広島カープや中央大学のロゴ)や、東京オリンピックロゴ選定問題など、知財と言えば、で気になってくる例がしっかり解説されています。
オリンピックロゴ、記事盗用など著作権に関係する話は、ニュース媒体では法的にどうなのかをきちんと解説しているケースはなかなか見られません。だからこそ一度知財法制度上はどう考えればよいのかをきちんと確認できてよかった。論文やレポートの剽窃に限らず、コピー&ペーストして使う・公開することが、技術的に簡単になってきている昨今、本書は高校生(社会人…と思いましたがそのもっと前で学んでおくべきと考えると結局高校生との結論になりました。)の必修図書といっていいくらいです。

具体例が載っているのでイメージしやすい、面白いと思ってさらりと読めるのがいいですね。ピーターラビットの著作権から商標へのコントロールの移行や、もっといろいろ勉強するなら巻末の参考文献をどうぞ。
制度の運用については、「商標出願」に関する解説のお話なんかは面白かったですね。出願の審査状況がインターネット上で公開されていますが、出願審査にかかっているものは商標として正式に認められたわけではない。むしろ他人の商標を大量に出願する個人が存在し、そのほとんどが出願手数料が支払われずに却下されているということ。特許庁の「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」は見に行けましたが、そもそも商標出願の制度がどうなっているかを本書で知っていなければ、何が起こっているのかは分かりにくいです。(余談ですが、税制や法制度についての官公庁のHPって、制度自体をよく知らないひとが見て分かるようには作られていないと感じます。元々それを目的にしていないのか、単に説明のしかたが上手くないのか…)

意外だと思ったのは、知財制度に関する知識は、他人の権利を知らないうちに侵さないようにするためもありまずが、他人から法律上の権利を超えた主張をされた場合に、きちんと反論・対応していくためにもとても重要なのだ、ということです。本書では、知財制度上問題のないケースへの抑圧があることにも触れられています。

『「パクリ」を糾弾する社会風潮は醸成されているが、必ずしも、日本人の知的財産権に関する理解が深まっているとは限らないということだ。モラル的にも問題のない合法的な「模倣」までもが葬り去られるようになってしまっては、本末転倒である』

『パブリックドメイン作品を掲載する場合や、作品を「引用」して利用する場合であれば、許諾は一切不要なはずなのに、権利を主張してクレームをつけてくる所蔵者やデータ提供元がある』

(合法的な)模倣は文化の発展を考えると欠かせないですし、「引用」やパブリックドメイン作品の権利主張は権利濫用に当たりますからねぇ。単に大きい声でいろいろいってくる人達に立ち向かうためにも、やはり本書は武器や防具になる教養知識といえるでしょう。