2017年12月の読了本リスト

こっそりと追いつくべく更新して参ります。
今回から少し形式を変えてみました。各書籍の書影の下にひとこと(くらい)のコメントを差し挟んでおります。

『戦う姫、働く少女』 河野真太郎
『関先生の世界一わかりやすい英単語の授業』  関正生
『サバイバル英文読解』 関正生
『サピエンス全史 上』 ユヴァル・ノア・ハラリ
『人生100年時代の らくちん投資』 渋澤健、中野晴啓、藤野英人
『家康、江戸を建てる』 門井慶喜
『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』  大矢博子
『アルゴリズムが世界を支配する』 クリストファー・スタイナー
『HARD THINGS』  ベン・ホロウィッツ
『働く人の養生訓 あなたの体と心を軽やかにする習慣』 若林理砂

 

ざっくりと最近のメディア作品における働く女性(社会の中で戦っているともいえる)を論じてます。社会学の語り口なのであまり読みやすくはないのですが、うなづけるところが多かったです。
 

このときちょうど英語を勉強しなおしていたのでこの2冊を読みました
著者はスタディサプリENGLISH(動画)でTOEIC対策講師をしてまして、これがけっこう面白かったので本も読んでみました。特に『サバイバル英文読解』は、大学受験での英語長文の読み方を思い出させる一方、いろいろと目新しいこともあったので面白かったです。

いろいろな方面から大変面白い、との噂を聞いていた本書ですが、いやいや期待通りでありながらそれ以上でもありました。
上下分冊とかなりボリュームがありますが、この手の本としても非常に読みやすい文章なので、まずは少しだけでもいいので読む、という気持ちでいるととっつきやすいかもしれません。。
ホモ・サピエンスの変化は、他の生物のように遺伝子ではなくミーム(人類の文化を進化させる遺伝子以外の遺伝情報)。だからこそ遺伝子ではありえない速度での変化が可能だというのは、納得させられてしまいます。

著者メンバーで選びました。つみたてNisa制度が2018年1月から始まりましたし、投資を考えるまっとうな入門書として良いと思います。一押しはやはりウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉 の第14・15章なんですけど。1冊読み通すにはそれなりに気合いが必要なので…。

これは、『江戸を建てる』を読んで、歴史・時代小説に行きたくなって『読みくらべガイド』へという流れでした。
『江戸を建てる』は、建築というより土木です。特に治水。人間も描いているんですが、江戸時代の治水工事・井戸の作り方がかなり詳しかった。こういったインフラ工事はいつの時代でもその時代の最先端の高度な技術が使われているし、その技術は現在にいたっても興味深いものであります。もう少しドラマティックな部分が多いともっと好きかも。。
『読みくらべガイド』は、連載コラムの単行本化ですが、紹介している冊数がすごく多いし、それらをいろんな切り口(時代だけじゃなく、料理とかほんともう様々)から紹介しています。やっぱり愛と知識がたくさんある人がしてくれる紹介ってのは読んでて楽しいですし触発されます。

ウォールストリートをアルゴリズムによるコンピューター取引が席巻するまでにどんな事があったのか、金融危機においてのアルゴリズム取引はどう評価されるのか、今後金融経済以外でどのようにアルゴリズムが活用される可能性が高いのかについて知見が得られます。中身には触れてないので特にプログラムの知識がなくても大丈夫でした。

ベンチャー経営とは、胃が痛くなる場面の連続である、ということが生々しく描き出されています。答えがない難問・困難に著者はどう対処したのか。著者の対応が正解ではないし、かならずしも一般論にはなるわけではない。でもとかく成功にばかりスポットライトが当てられやすいところ、貴重な実例を惜しげも無く披露している本です。
ベンチャー経営に関わったり、実態を知りたいと思うならぜひ押さえたい1冊かな。

この著者の本(とメルマガ)読んでいるので、最新刊を購入。著者は東洋医学の先生で、いろ著作もたくさんあります。いつも言うことが一環しているので、著作も同じ内容をどういう観点でまとめたものか、という違いになりますかね。

2017年11月の読了本リスト

今月もやはりジャンルに統一性のないラインナップでした。
読みたい本が常に積み上がっているので、硬軟織り交ぜて読むことになるんですよね。硬いばかりだと疲れる、軟らかいばかりでもそれなりに飽きる…。

『HARD THINGS』ベン・ホロウィッツ
『働く人の養生訓 あなたの体と心を軽やかにする習慣』若林理砂
『ウニはすごい バッタもすごい – デザインの生物学』 本川達雄
『怖い絵 死と乙女篇』 中野京子
『2週間で人生を取り戻す! 勝間式汚部屋脱出プログラム』 勝間和代
『ライフハック大全―――人生と仕事を変える小さな習慣250』 堀正岳
『経済学者 日本の最貧困地域に挑む―あいりん改革 3年8カ月の全記録』
鈴木亘
『ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常』 藤田結子
『ストーリーとしての競争戦略』 楠木建
『ユニクロ9割で超速おしゃれ』 大山旬
『異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』
エリン・メイヤー
『地球の法則と選ぶべき未来 ドネラ・メドウズ博士からのメッセージ』
ドネラ H メドウズ
『温暖化論のホンネ ~「脅威論」と「懐疑論」を超えて 』
武田邦彦,枝廣淳子,江守正多
『教養としてのプログラミング講座』 清水亮

『HARD THINGS』は、シリコンバレーの起業家である著者が、未来の起業家への参考になるように、自分の経験してきた修羅場(そうとしか呼びようがないくらいヒリヒリします)を語っています。これからスタートアップで起業するひと必読であるとともに、経営者であること(の大変な側面)を体感できます。胃に穴があきそう。

『ウニはすごい バッタもすごい – デザインの生物学』は東工大での授業内容です。面白い大学の授業ってこんなだったなー、という感じがする楽しい本です。あと著者は毎回歌を作るクセがあるので、今回も昆虫のうた、ウニのうた、ナマコのうたなどが収録。

『ライフハック大全』は大全の名にふさわしい全集っぷりでした。ライフハックが日本に入ってきた初期からずっと最前線を走ってきた著者だからこそ書ける内容です。様々な範囲を網羅していると共に、今提供されているサービスのなかでこなれているものを紹介しています。

『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』は個別記事書きました。これは地域改革としてすごいとともに、お話としてはらはらどきどきの面白さですよ。
『異文化理解力』も個別記事書きましたのでここは省略です。

『ストーリーとしての競争戦略』。これも面白かったですねー。マイケル・ポーターとか、『ブルー・オーシャン戦略』とか『ビジョナリーカンパニー』とかお読みならぜひこちらも。ケーススタディ(日本企業)がきちんと入っているし、応用向けの戦略論です。

『ユニクロ9割で超速おしゃれ』は、30代以上の男性でごく普通~すこしおしゃれな服装をコストパフォーマンス良くそろえる参考にはすごくいいです。個人的に非常に使える本でした。ユニクロで買い物しましたとも。

『ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常』は日本のワンオペ育児状況のルポと、個人レベルの対策を提言するものでした。
ワンオペ育児まっ最中のかた向けというより、これから育児を控える家族とか、そういう人の上司や社長や親戚や親世代といった社会全体に現状を訴える(「わかってほしい」)内容ですね。
現在ワンオペ育児中の方には先月読んだ『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』のが参考になるかも。

『温暖化論のホンネ ~「脅威論」と「懐疑論」を超えて 』はですね…。
温暖化現象の研究者、対策組織など活動している専門家(アル・ゴア『不都合な真実』の翻訳なども)、そしてアンチ温暖化対策の学者の対談です。なんというか、TVなどでは意見が平行線になって面白おかしく言い合いで終わりそうなところを、きちんとすりあわせを図っているところがスゴイです。

『パパは脳研究者』池谷裕二

以前に著者の別作『単純な脳、複雑な「私」』『のうだま』などを読んで、信頼できる面白い著者さんだと思いました。その著者が自分の子育てについて書いたもの、ということで 脳研究×子育ての現場 のなにかしらわくわくするものが読めそうだと期待して本書を手に取りました。

本書は、育児雑誌に月1回連載されていたコラムをまとめなおしたものです。著者のお嬢さんが0ヶ月~4歳になるまでの様々な反応や行動を、子煩悩な父親としてかわいがるとともに、脳研究者ならではの面白い分析・解説を加えています。
毎月毎月の子どもの成長を見守っている感じがするので、お子さんをお持ちの方は「あるある!」と共感できそう。これから育児に挑むお父さんお母さんにとっては、不安を煽らない、子どもの発達に対する専門知識と落ち着きある良識を併せ持ったひとつの例として、安心して読めます。

自分で子どもを育てていくなかで、子どもに関する専門的な知識(本書では脳の発達に関する知識)があると、知識がない普通のひととはまた別の見方・発見があるんだ、ということを本書では強く感じました。
子供(わが子)の観察の際に、子どもの発達に関する知識がある著者はとても楽しそうなのです。子どもがなにかを「できる」ようになったとき、「できた」こと自体のよろこびだけではなく、その「できた」が発達過程の大きな流れのひとつとして位置づけられる。早いことも遅いこともありますが、それらのものごとを点だけではなく線の観点からも俯瞰して見ることができる。
何かを観察するとき、それに関する知識があると、知識がないよりももっと楽しい。それは子供(わが子)についてもきっと例外ではないのでしょう。

特に父親・母親はわが子(赤ちゃん)を観察する機会・時間が圧倒的に長いので、そのときに子どもに関する信頼性の高い(ここが大事です)知識があるときっと楽しいんじゃないでしょうか。そういう子育てが楽しくなる信頼性の高い知識を、子どもの年齢に合わせて手に入れられる本としても、本書はオススメです。

脳研究自体に興味がおありならぜひこちらも。安心と信頼のブルーバックスです。

『ときどき旅に出るカフェ』 近藤史恵

 

Kindle1日セールになっていたので買いました(現在は終了)。ビストロ・パ・マルシリーズやサクリファイス(自転車ロードレース)シリーズなどのこの著者の小説が好きなのです。

期待に違わぬ、読後感の良い短編連作集です。
「こんな店があったら行ってみたい!」な小さなお店「カフェ・ルーズ」が舞台。カフェで供されるさまざまな食べ物・飲み物がモチーフとなって、お話が紡がれます。
メニューは、苺のスープ(表紙の写真はこれでしょう)、アルムドゥドラー(オーストラリアの炭酸飲料)、ロシア風ツップフクーヘン(チョコレート入りチーズケーキ)など、沢山の耳慣れないいろいろな名前の異国の食べ物・飲み物が登場して、どれも実に美味しそう!な描写なのです。雰囲気だけでなくこのメニューを食べてみたい…と思わされます。

さらに、単に物珍しい素敵なスイーツ、キラキラした場所のお話、というだけではないところがこの小説に奥行きを与えています。
主人公は、ちょっとしたきっかけでカフェの常連客となる37歳独身でマンション購入済の女性。この主人公の立ち位置から、社会のマイノリティとして多数派、マジョリティ側から無意識にかけられる圧力があることなどが、繊細に重苦しすぎずに描かれています。
そしてカフェ・ルーズが「ときどき旅に出る」、珍しい他国の食べ物が供されるカフェである理由もきちんと示されています。
知らない食材、食材は知っていても考えもよらないような組みあわせで出来ているさまざまな料理。それらを通しての、自分が考えているよりも世界は広いことを感じとってもらえればいい、自分の周りという狭い世界のマジョリティに従って苦しい思いをしなくていいですよ、という優しいメッセージが、お話に地に足の付いた雰囲気を与えているのでしょう。

本書がお気に召した方なら、同著者のビストロ・パ・マルシリーズ『タルト・タタンの夢』『ヴァン・ショーをあなたに』『マカロンはマカロン』もおすすめです。こちらの舞台はフレンチビストロで、ゆるめのミステリ短編集です。やっぱり美味しそうな気取らないフランス料理がたくさん。

 

『幸福の「資本」論』(橘玲)

Webでこの本の紹介記事を見かけて興味を持ちました。「この著者」が幸福を語る、というのが面白そうだったからです。
著者の本は『マネーロンダリング』、『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』などそれなりに読んでますが、論理的でとことん現実的で明晰なのですが、情がない、身もふたもない論調という印象を持っています(攻撃的ではありません。むしろ物腰は非常にやわらかい文章です)。
この著者が「幸福」について論じる。だとしたらそれはぼんやりした自己啓発様のものではなく、明瞭な理論をもって「幸福」という主観要素の大きい曖昧なものを語ってくれるのではないか。そんな期待をして本書を手に取りました。

本書は、人が持つ資本=資産を、金融資本、人的資本、社会資本の3種類に分類したうえで、幸福になるためにはこれらを把握して現実的な戦略を立てています。具体的には、大切なひととのごく限られた愛情関係と、広い「弱いつながり」を保ちつつ、一つの組織に生活を依存しない、専門的な知識・技術・コンテンツを活用して、プロジェクト単位で気の合う「仲間」と仕事をする、というのを「幸福な人生の最適ポートフォリオ」として提示しています。

実は結論の「幸福な人生の最適ポートフォリオ」部分だけ見ると、それほど斬新な話でもありません。しかし、本書の面白さとはそこではないのです。
本書は「幸福」を定義し、人はなにから幸福を感じるのか、というところからスタートして、それぞれの資本の解説をした後に「最適解」を提示する、という過程を丁寧に説明しています。その過程にこそ本書の奥深さがあります。理論を築いての提示だからこそ、「最適解」以外の人生においても、どうすればより幸福になれるのかを、読者それぞれが応用して考えることが可能です。
また「最適ポートフォリオ」とはあくまで「土台」であり、それぞれの人生はその上に築くものであるという、人生が多様なものであることを受け入れる論理になっています。また、土台がしっかりしたからといって、必ずしも幸福になれるものではない、とわざわざ著者は断りを最後にいれています。論理で「幸福」をある程度分析しているも、完全に論理で語り切れているわけではない、ということは誠実に示しているのです。
これらの応用性の高さ、誠実さはやはり著者の鋭い論理性からこそ生み出されるものであり、それが本書の最大の強みと面白さであるといえるでしょう。

そうそう、本書中では最初の『最貧困女子』に触れている部分がけっこうありました。『最貧困女子』は読んでおりまして、貧困女子の実態を追ったルポルタージュ本です。本書分類でいう「プア充」、そして「最貧困女子」の実態はかなり圧倒されるものがあります。他にも本文中に典拠となる本がたくさん紹介されるので、いくつかは読んでみたいと思いました。

『GE 巨人の復活』(中田敦)

本書は、ジャック・ウェルチの作り上げた20世紀の巨大企業GE(ゼネラル・エレクトリック社)が、21世紀の今、ハードとソフトの製造業に転身した詳細を解説しています。

80~90年代の企業のセオリーであった「ソフト開発は外注に出す」を実行していたGE。それが自社にプログラマを必死に集め、基幹システム・アプリケーションとモノをセットにして作っている。そこから作りだされるのは、IoTの使用を想定して作り込まれた「モノ」という、ソフトウェアサービスとモノが一体となった競争力の高い商品です。競争力の源泉となるソフトウェアを開発するために欠かせないものとして、プログラマの人数を確保するだけでなく、全社にシリコンバレー流の組織運営を徹底的に取り入れている。簡単にまとめればそんな内容になります。

古い(創業が前世紀であり、製造業という古い業界に属している)大企業が、今を生き残るために、デジタル分野へ主要戦場を移し、シリコンバレー流の組織運営を取り入れている。それも一部ではなくグループ全社で徹底的に実行している。その事実を知らなかったので興味深かったです。
GEという超有名企業でこんなにも大きな変化が起こっているのだとしたら、同様の転身を図る企業はいるのか、もしくは今後出てくるのか。それが気になりました。
本書で語られたGEの変化が、GE単体の成功談にとどまるのか。それとも製造業全体に波及していくのか、と言い換えてもいいかもしれません。
私はこの流れは少なくとも製造業分野内の一定の範囲には拡がると感じています。競争力のあるモノとは、付加価値があるモノです。そしてIoT・デジタルの特性を活かした業務分析や運営が可能、というのは歴史上今はじめて可能になっている付加価値です。その付加価値を先駆者としていち早く押さえたモノが、競争力を持つのは間違いないでしょう。となると製造業が主要産業のひとつである日本でも、本書が紹介したGEと同様の変化を遂げる、もしくは既に変化を遂げた企業が台頭してくるのではないでしょうか。そしてその際にはGE(と本書)は先例として引き合いに出されるのでしょう。

製造業部分だけではなく、シリコンバレー流を徹底的に取り入れている組織運営の話も面白かったです。とかく新しい組織運営・新しい社風への転換は難しいといわれるなか、GEという巨人の先例は、今後同様の転換を図る経営者にとっては、ひとつの大きな道しるべになるものです。
製造業業界や、IoTが今はあまり関係なさそうな大きな組織に属している人は、先端でこんな面白い事例が起こっていることを、もしかしたら自分たちが向かう先かもしれないその事例を、本書でぜひ詳しく知ってみて損はないと思います。

そうそう、ひとつ卑近だけど大事なおすすめポイントを。本書は著者が日本人のせいか、コンパクトなページ数にまとまっておりとても読破しやすいです。アメリカで出版されるこの手の本は事例満載で分厚くて、全部読むのはなかなか大変な(なので読み飛ばしたり途中で挫折しそうになる)場合が非常に多いのです。その点でも本書はとても新鮮でした。

そういう意味でも読みやすいので、ぜひ一度手にお取りください。おすすめです。

『楽しく学べる「知財」入門』(稲穂健市)

武器や防具になる教養が手に入る本だなぁ、というのが一言での感想です。

本書は一般のひとが読めるように日本の知財法制度の解説をしています。具体例豊富に紹介されているので読んでいて楽しいです。表紙にある「C」マーク(広島カープや中央大学のロゴ)や、東京オリンピックロゴ選定問題など、知財と言えば、で気になってくる例がしっかり解説されています。
オリンピックロゴ、記事盗用など著作権に関係する話は、ニュース媒体では法的にどうなのかをきちんと解説しているケースはなかなか見られません。だからこそ一度知財法制度上はどう考えればよいのかをきちんと確認できてよかった。論文やレポートの剽窃に限らず、コピー&ペーストして使う・公開することが、技術的に簡単になってきている昨今、本書は高校生(社会人…と思いましたがそのもっと前で学んでおくべきと考えると結局高校生との結論になりました。)の必修図書といっていいくらいです。

具体例が載っているのでイメージしやすい、面白いと思ってさらりと読めるのがいいですね。ピーターラビットの著作権から商標へのコントロールの移行や、もっといろいろ勉強するなら巻末の参考文献をどうぞ。
制度の運用については、「商標出願」に関する解説のお話なんかは面白かったですね。出願の審査状況がインターネット上で公開されていますが、出願審査にかかっているものは商標として正式に認められたわけではない。むしろ他人の商標を大量に出願する個人が存在し、そのほとんどが出願手数料が支払われずに却下されているということ。特許庁の「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」は見に行けましたが、そもそも商標出願の制度がどうなっているかを本書で知っていなければ、何が起こっているのかは分かりにくいです。(余談ですが、税制や法制度についての官公庁のHPって、制度自体をよく知らないひとが見て分かるようには作られていないと感じます。元々それを目的にしていないのか、単に説明のしかたが上手くないのか…)

意外だと思ったのは、知財制度に関する知識は、他人の権利を知らないうちに侵さないようにするためもありまずが、他人から法律上の権利を超えた主張をされた場合に、きちんと反論・対応していくためにもとても重要なのだ、ということです。本書では、知財制度上問題のないケースへの抑圧があることにも触れられています。

『「パクリ」を糾弾する社会風潮は醸成されているが、必ずしも、日本人の知的財産権に関する理解が深まっているとは限らないということだ。モラル的にも問題のない合法的な「模倣」までもが葬り去られるようになってしまっては、本末転倒である』

『パブリックドメイン作品を掲載する場合や、作品を「引用」して利用する場合であれば、許諾は一切不要なはずなのに、権利を主張してクレームをつけてくる所蔵者やデータ提供元がある』

(合法的な)模倣は文化の発展を考えると欠かせないですし、「引用」やパブリックドメイン作品の権利主張は権利濫用に当たりますからねぇ。単に大きい声でいろいろいってくる人達に立ち向かうためにも、やはり本書は武器や防具になる教養知識といえるでしょう。

『教養としての社会保障』(香取照幸)

ライフネット生命の出口会長がおすすめしているのを見て買いました。本書は「当たり」です。
とりあえず日本国の社会保障の恩恵を受ける人は一読をおすすめします。まさに「教養としての」とてもよい入門書でした。帯の文言はすこしうっとうしくて心配だったのですが、そんなものはどこへやら。専門家(官僚)がこんなに読みやすくわかりやすい本を書いてくれるんだ…!と感心しました。

社会保障制度って、制度そのものがかなり複雑で、かつ現在では様々な課題があります。なので、どうしても社会保障制度についての本って長くて読みにくくなりがちです。それを、全体感をつかめるし歴史的な経緯もわかるのにすいすい読める本書は本当に貴重だと思います。社会保障制度の本は、異なる著者のものを何冊か読んでいますが(主に研究者が書いたもの)、本書ほど全体がが概括できかつ読みやすい(本自体もページが少なめ・薄め)著作には巡り会っていませんでした。
巻末に参考文献(意見が違うもの含め)がたくさんのっているのも個人的にはポイント高いところです。社会保障のありかたや課題への対応は、いろいろと意見が分かれるところでもあるので、著者の意見だけではなく参考文献で気になったものも読んでみるなどすると、かなり社会保障についての見識が鍛えられそうです。

本書の弱点をあえて言うのであれば、さらりと読めてしまうので、逆に議論する際のとっかかりが低いことでしょうか。ただ、各論にこだわりすぎても全体がつかみづらくなるので仕方が無いことですし、それこそ参考文献に挙げられている書籍(専門書だけでなく新書も載っています)でそのあたりは補えばよいと思いますので。

私が読んだことのあるものでいえば、本書の次には『財政危機と社会保障』(鈴木亘)なんかがおすすめですね。

『かくて行動経済学は生まれり』(マイケル・ルイス)

著者は、映画にもなった『マネーボール』の作者です。『マネーボール』に寄せられた書評をきっかけに行動経済学の存在を知り、その生みの親といわれるダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーはどのように行動経済学を生み出したのかを描いています。

行動経済学というより、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーについての本ですね。『ご冗談でしょう、ファインマンさん』と似たようなスタンスです。
心理学と経済学のはざまで生まれた行動経済学。それがまったく異なるパーソナリティを持つダニエルとエイモスのふたりによって生み出された過程がドキュメンタリーのようにつづられています。行動経済学の知識なしに本書を読んでも十分面白いでしょう。逆に本書で行動経済学を学ぶことはなかなか難しいですが、それはダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』などにお任せしましょう。

本書で印象的だったのは、ダニエルとエイモスがイスラエル人であること、イスラエルにおける生活の激しさです。
本書はダニエルとエイモスのイスラエルでの生活と軍隊従事経験から始まっています。
ダニエルのキャリアが始まったのは、イスラエル軍の新人選抜の方法を検討する仕事を遂行するため。軍隊の新人選抜という場でなければ、選抜方法と結果のデータの照合、若いダニエルの登用もなかった可能性が高い。エイモスも、そのパーソナリティはイスラエルで育ったのでなければ、エイモスにならなかったのではないかと思わされます。
その2人が、故郷イスラエルへの強い思いがあるにも関わらず、研究生活はアメリカで送らざるを得なかった。ほぼ同時代でのできごとだけに強く印象に残りました。

本書で語られるダニエルとエイモスの「共同研究」の様子からぼんやりと感じたことがもうひとつあります。
それは、行動経済学という理論を打ち立て、人間の認知の歪みを客観的に指摘することができたのは、ダニエルとエイモスという異なるタイプの人間が「ふたりで」研究を行ったことも大いに影響しているのでは、ということです。
なにしろダニエルとエイモス自身も、認知の歪みから逃れられません。自分の認知に「歪み」があるということの検証は、自分ひとりよりも、ふたりで互いに確かめ合う方がずっと見つけやすい。見つけやすく、認めやすく、練り上げ易かったのではないでしょうか。そんな気がしています。

行動経済学自体に興味が出たならぜひ『ファスト&スロー』、本書内にも出てくる『実践 行動経済学』もどうぞ。両方とも一般向けの本ですし、なにより理論の内容自体もとても面白いですよー。

『大人もおどろく「夏休み子ども科学電話相談」 』(NHKラジオセンター「夏休み子ども科学電話相談」制作班)

NHKラジオで1984年から30年間、夏休み時期に放送されている「夏休み子ども科学電話相談」という番組があります。その番組の2016年までの放送分から抜粋・編集して本書は作られています。番組を最近知ってときどき聞いていてなかなか面白いので、本書を買ってみました。

このラジオ番組が好きな大きいお友達は必読。あとは、お子様のいる方も。
子どもの質問内容もですが、専門家の先生の回答内容、先生のキャラクターが面白いです。専門家がこどもに本気で説明する際の言い回しや苦闘ぶりなど、参考になりつつも思わずくすりと笑ってしまうような、すてきな読後感の本です。

本書を読むと「夏休み子ども科学電話相談」が聞きたくなりますね。今年はNHKのラジオアプリや番組HPで一部放送を後から聞くこともできますので、興味が出た方はどうぞ。ちなみに今年の後半放送は8/24(木)~31(木)です。

本書内の質問で印象深かったのは、「植物によい言葉をかけるとよく育って、よくない言葉をかけるとよく育たないっていうのは本当なのか」という質問です。典型的な疑似科学ですね。この質問への回答が、単に「それは違う」ではないのです。やりとりも含めてとっても楽しい回答になっています。

本書の最初には、回答者の先生一覧があり、それぞれの先生の著書名も載っていますので、本書を読んでみて気になった分野・先生の本をまた読んで見るのも良さそうですね。