2018年12月後半の読了本リスト

「ビジネスモデル2.0図鑑」 近藤哲朗
「あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続」 宮部みゆき
「TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか」
レイチェル・ボッツマン
「ユーチューバーが消滅する未来」  岡田斗司夫

TRUSTが例によって分厚かったですね。一番分厚いのは宮部みゆきですが、小説は分厚くても問題ないので。

 

出版が2018年11月ですね。社会人必携のリファレンス用図鑑です。(図鑑なので自宅においてパラパラみるイメージ)
見開き1ページで1企業(ビジネスモデル)を紹介しており、本書を眺めるだけで面白いビジネスモデルを持っている企業を100個知ることができます。利用してみたいなと思うサービスもたくさんありました。近所の本屋で偶然見つけてよかったです。リアルな店舗はこういうことがあるからやめられません。

昨年は、「GAFA」「Amazon」など1つの企業(ビジネスモデル)について分析を加える本が出版され話題になりました。こういった本は、複数冊読むのにはなかなか時間がかかります。あまり自分が求めていたことが書いていなかった…というミスマッチが発生したりするとなお悲しいものです。
まず世の中にこういったビジネスモデルが既に存在することを知るためには、本書はとても良い入門図鑑です。
また、本書は冒頭で、ビジネスモデル図の切り口として「ソーシャル、ビジネス、クリエイティブ」という3つの観点を使うことや、具体的な図の作成ルールが丁寧に説明されています。本書内のビジネスモデルを読む手引きだけではなく、読者が今後自分で本書にあるようなビジネスモデル図を作成することができるようになっています。

図鑑として眺めるもよし、ビジネスモデルを作成して生かすもよし、応用方法がたくさんあり多くの方におすすめしたい本です。

 

 

タイトル通り、三島屋シリーズ5冊目です。相変わらずなかなかの切れを見せる個別中編が続きます。さらにシリーズ上の大きな動きとして、聞き手役が交代します。
宮部みゆきは本シリーズの他にも「人の業」と「怪異」とを結びつけた作品を多く発表しており、「人の業」をメインモチーフにした作品、「怪異」をメインモチーフにした作品の両方があります。本シリーズは「人の業」がメインに据えられており、本巻では特に冒頭の「開けずの間」でそれが顕著です。げに恐ろしきは人の業。

百物語がモチーフになっているので100話まで本シリーズは続けたい、と著者が別書籍掲載のインタビューで述べており、まだまだ続きが楽しみなシリーズです。

 

 

現在までの「信頼」のあり方と、今後について分析した本です。
「ローカルな信頼、大規模制度への信頼、分散された信頼」 の3つに分けています。そして現在、「制度への信頼」から「分散された信頼」への移行が起こっており、その具体例がトランプ大統領の台頭やブレグジットなのだと著者はいいます。
人が何を信頼するのかは近年大きく変わってきた、という感覚が私自身にもあり、信頼の歴史とその解説は面白かったです。後半部分のAIへの信頼、今後の未来予測は、前半よりも少し切れ味が鈍った印象でした。

ちなみに、サブタイトルは、最先端企業信頼攻略について述べているようにつけられていますが、あくまでこの手の本によくある詳細な具体例としていくつかの企業が取り上げられているだけです。 企業分析をしている本ではないので、その点はご留意いただければと思います。

 

 

ユーチューバーの話をするのではなくて、今後の社会がどうなるかという未来予測。「評価経済」など、この人の未来予測は意外と当たります。今回もなかなか面白い。 エンターテインメント、特に YouTube 関係に関しては具体的に踏み込んでいるので、その辺りに手を出している人には特におすすめしたい本です。

ただしエンターテイメント以外の事項は少し掘り下げが浅い印象です。本書はいろんなところで著者が話した内容をまとめているという作られ方をしているので、仕方ないのかもしれません。もっと掘り下げて面白い分析を加えられる著者なので、今後、本書内容を熟成させた新しい著作が出るのを楽しみに待ちたいです。

2018年12月前半の読了本リスト

「昆虫こわい」 丸山宗利
「情報生産者になる」 上野千鶴子
「新しい二世帯「同居」住宅のつくり方」 天野彰
「夫婦の家」 天野彰
「スレイヤーズ16 アテッサの邂逅」 神坂一

以上5冊。先月の反動か気楽に読む本が多かったですね。昆虫と論文と住宅と思い出。

2018年は夏休み子ども科学電話相談の虫部門担当、 国立科学博物館の昆虫展などで、著者の名前をよく見ましたので、一度著者の本を読んでみようと思いました。写真の昆虫は色も綺麗なので、ぜひカラー版をお勧めします。

研究対象(昆虫)が好きでしょうがない研究者による、面白エッセイです。 研究対象に過度の思い入れを寄せ「ない」研究者の面白エッセイである「鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ」となんとなく比べながら読んで楽しかったです(特に採集時のテンション)。エ読み物としての面白さだけでなく、昆虫のきちんとした学名や収集場所の詳細も載っていますので、昆虫ガチ勢な皆様(?)にもきっとご満足いただけるのではないでしょうか。

著者の主な採集標的はハネカクシとツノゼミです。昆虫展でハネカクシとツノゼミの展示を見ることができましたが、それまでは間違いなく知らなかった昆虫でした。展示でも思いましたが本書内の写真を見ると、ツノゼミって本当にいろいろな奇想天外奇天烈なカタチをしています。

人があまりいない地域に行って様々な種の採取を行う、昆虫学者はやはり現代の冒険者です(小笠原に向かう鳥類学者もそうでしたが)。ただ、原生林は生物種がそれほど多くなく、ほどよく開かれた森に多種の昆虫が生息しているそうで、それもなんだか面白いところだなと思いました。

 

 

東京大学上野ゼミでの実践に基づく、論文の書き方・レビュー・コメント方法を詳細に説明する本です。著者は、タイトルにある「情報生産」の一つの合理的な完成形を「論文」においており、その詳しい方法を説明しています。

あとがきにて著者は、本書の方法論は「論文」に限って間口を狭くするのではなく、広く一般にも開かれる「情報生産」と位置づけたいとしています。

しかし、最初から6割がたまでは論文を「書く」方法論の説明です。そのため、論文をこれから書く予定はない読者である私は、本書を読む意味を疑い、正直途中で脱落しそうでした。

ところが14章以降の内容は、一転し、論文を書かない立場からしてもかなり興味深い内容です。論文ではなく、およそ一般的な文書(プレゼン含む)の場合にも、どんなことを考えて読むもしくは聞けばよいのか、自分の疑問をどう整理して向き合えばいいのかが、明確に、そして易しく説明されているのです。

本書は、どんな立場の読者であっても、最終部分はとても面白く、タイトルに沿ったと判断できそうな内容です。しかしそこにたどり着くには、タイトルから連想されるとは少々異なりしかも長い「論文の書き方説明」を越える必要があります。

タイトルをきっかけに本書を読んでいった私は、ちぐはぐな印象を受けました。

本書名を「論文の書き方・コメントの仕方」としたくない著者の意図はわかります。でも、タイトルを一部変える・本書構成についてあらかじめ説明するなどの方法で、読んでいる途中に混乱しないように工夫をしたら、本書はもっと楽しく、挫折しそうにならずに、読めたと思うのです。

終盤の内容が面白かっただけに、よけいに惜しいなと思う1冊でした。

 

 

いずれも、戸建て住宅を設計してきた建築家による、戸建て住居を建てる際のアドバイス本です。以前放送されていたテレビ番組「劇的ビフォーアフター」をよく視聴していたことを思いだしページをめくってみたところ良さそうなので読んでみました。家を建てる予定が全くない私にもとても面白かったです。

二世帯同居住宅の個別ケース(間取り図などの説明付き)を紹介しつつ、本書は進んでいきます。まず面白いのは、住宅を設計する過程が、親世帯・子世帯という独立した生活スタイルを持っている2世帯が、どうやって共存するのかを探る過程となっていることです。
住宅を設計するとは、家の中で家族がどう生活するかを想定してもらい、それに併せて構造や間取りを提案し決めていくことである、と著者はいいます。
そのため、特に二世帯同居住宅においては、親子それぞれの世帯の生活の共有・個別部分を明確にし、親子世帯がどのように関わって生活するのかを、住宅の設計時点できちんと整理する必要がある。そうでなければ、 住宅が完成し生活を開始した後に問題が噴出し、結局その住宅での暮らしが良いものにはならないのだそうです。

それで結局どうなるのかというと、建築家である著者が親子それぞれの様子をうかがい、時にはなだめすかして本音をなんとか聞き出しつつ、同居住宅のアイデアを出していくのです。これが、家族ごとに、生活時間帯の違いや騒音、親子の距離感などといった色々な問題がホームドラマのごとく展開されております。

そしてそれらの親子のいざこざを、間取りや機能でなんとか工夫して著者が解決しようとする。面白い1話完結ホームドラマを見ながら、住宅について詳しくなれる、そういった娯楽的に楽しませてもらいました。

 

 

その昔リアルタイムで読んでいたシリーズのため、当時の読者ホイホイされました。

著者も当時から別作品との比較で言っていましたが、このシリーズは戦闘シーンとキャラの濃さで出来上がっています。当時と変わらぬ読み応えなので懐かしみたい方はご安心のうえご賞味ください。

 

2018年11月の読了本リスト

知的生活の設計」 堀正岳
ホモ・デウス 上下合本版  」 ユヴァル・ノア・ハラリ
TDL(東京ディズニーランド)大成功の真相」 ダグラス・リップ

「ホモ・デウス」にがっぷり四つだった11月です。

本書の内容は、10年後を見据えて知的生活(情報へ触れる)をどのように設計するか、という方法論の紹介です。理論的な説明に始まり、具体的なサービス名を挙げその使い方までしっかりと紹介しています。しかしページ数は多すぎずちょうどいいボリューム。読みやすくとっつきを良くするために、かなり文章を削ったのではないかと邪推します。

本書は、巷に溢れるビジネス書・ライフハック本とは一線を画します。 それは本書が10年という「中長期的な軌道」の設計を示す、というコンセプトで作られているからです。
ビジネス書・ライフハック本は、良くも悪くも、目の前の仕事や生活を何とかしようと思った際に読むことを想定しています。差し迫った問題に対処するのは、もちろん大事なことです。そしてそのための本が、現状でこれだけ書かれ読まれているのであるならば。本書のような「中長期」的に大切なことを考える本も、もっとたくさん出版され読まれてもいいのだと思います。

重要・緊急での時間管理のマトリックス(「7つの習慣」のスティーブン・R・コヴィー)に照らしあわせるなら、「重要だけれども緊急ではない」 第2領域の設計を扱おうとしているのが本書だと分類できるかもしれません。

 

本書はひとことで言うなら、起こりうる未来の提示と警鐘、です。

現在サピエンスの社会で起こっていること、過去のサピエンスの歴史を丁寧に説明し、その二つの材料から「不死、幸福、神性を目指す」未来を予測しています。そして、その未来がディストピアとなる可能性を示し、最後にまだディストピアは可能性の一つに過ぎず、回避も可能と述べています。
本書で展開される解説は前著「サピエンス全史」同様にエキサイティングで、本書で示されるディストピアに説得力を持たせます。


サピエンス全史でもそうなのですが、結論はシンプルなのです。結論に説得力を持たせるための、膨大な語りや説明の面白さにこそ、本書の真髄はあります。読んだふりをするだけなら上記の要約で十分です(よくはないのでしょうが)。自分で読んでみて、著者の語りに対し同意や反発を覚えてみるところに、やはり面白さがあるのだと思います。

例えば私自身は、人間至上主義の部分にはいくつか異論を覚えるところがあります。
「完全に単一の自己」「自由意志」が存在しないために、個人の価値は低下する、と著者は述べています。確かにそうなのでしょうが、この「個人の価値」とは、そもそもが西洋における「個人、個人主義」という概念です。

日本含む東洋的な文化圏でいう「個人」は、そこまで絶対的な独立性を持つものではなく、それが故に「個人の意味・価値」もそこまで大きなものではありません。だから実は個人に意味や価値がない、と言っても社会的なインパクトもない。その代わりに意味や価値がなくても、社会は十分に存在していけることの実例になると思うのです。


こんな感じで本書で紹介されているさまざまを味わい尽くす。そんながっぷり四つに組む面白さが味わえます。

 

東京ディズニーランド(TDL)建設までの裏話を、アメリカのディズニー社に当時所属していた著者が明かします。

タイトルに「大成功の真相」とありますが、TDLの成功分析の本ではありませんのでご留意ください。TDL誘致~開園までを、アメリカディズニー側の立場でみた資料の一つです。日本のオリエンタルランド側と資料内容を突き合わせたりすると、近代史検証として楽しそうです。

他にも、TDLという特殊性にこだわらず、「1970~80年代の東京での、日米合同のエンタメプロジェクト」の先駆け例として読んでも面白いです。コンテンツ内容にこだわるのが日本ではなくアメリカ側である、輸入コンテンツ例としてはいろいろ示唆がありそうですね。

 

2018年10月後半の読了本リスト

「ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか」  原田泰
「自分の顔が好きですか?-「顔」の心理学」 山口真美
「世界の再生可能エネルギーと電力システム 電力システム編」 安田陽

今月のヒットは「ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか」ですね。
どれもページ数は少なめですが、内容はかなり詰まった本でした。

かなりいろいろと考えることができる本でした。本書の主張をひとことでいうならば、「ベーシックインカムを通して、 日本政府が貧困問題(の一部)を解決することは現状で可能である」というものです。
ベーシックインカムが、再分配制度として効果が大きいものであること、そして現状の日本でも実現可能である検証が丁寧になされています。
個人的には、「貧困とはお金が足りないということであり、お金を配れば解決する」というのがぐっときました。著者の主張は、『貧困は「お金を配れば解決するもの」「お金を配っただけでは解決しないもの」の2つに分けられ、前者はベーシックインカム制度導入によって、極めて合理的に解決することができる』というものです。
実際の検証を行っていること、ベーシックインカムにつながる社会福祉制度を丁寧に概観している、質の高い新書でした。新書なので読みやすいですし、ぜひおすすめですね。

 

本書は、顔とその認識に関する最近の科学知見を紹介しています。
紹介される顔の認識、脳の働きに関する意外な知見は、大人にとっても十分目新しく面白いです。
本書で紹介されている「顔」に関する人間の特性を通じてわかるのは、「顔」は私たち読者やその身近な人とのコミュニケーションに深く関係している、ということ。私たちが当たり前だと思っている以上に影響を持っているということが説明されているのです。

本書がジュニア新書というレーベルからの出版であることにとても意義を感じます。岩波ジュニア新書は「中学生や高校生の学習に役立つサブテキスト」として、中高生にも読みやすく理解しやすいことを念頭に置いてつくられています。
もし思春期に、顔にコンプレックスを持ちそうになったり、顔が原因で身近な人とのコミュニケーションがうまくとれなくなりそうになったりしても。本書に出会うことでだいぶ楽になれるはずだ、という希望が本書に見て取れるのです。

 

世界の再生可能エネルギーと電力システム 電力システム編 安田陽
度仕組みをきちんと知りたく本書を購入しました。
9月の北海道胆振東部地震で北海道全域での大規模停電(ブラックアウト)が発生した際の報道もわかるはわかるのですが、少し納得いかないような気もしまして。

本書は題名に「再生可能エネルギー」とついていますが、メインはほぼ「電力システム」についての解説です。

”本書では全体的に日本・欧州・北米の世界の3つの地域の電力システムを比較しながら、できるだけ「外からの視点」で日本の電力システムを俯瞰的に再考していきたいと思います。”

著者がこう冒頭で書いているとおり、きっちり比較をしながら説明を進めていくので、理解しやすい入門書でした。

【2018/12/11まで】Kindleセールのおすすめ本、今回買った本

冬の Kindle 本セール(2018/12/11まで)
幻冬舎新書フェア【全品399円セール】(2018/12/13まで)

上記セール本一覧にざっくり目を通した結果を残しておきます。「私が読んだことのあるおすすめ本」7冊と「今回私が買った本」1冊、どれも最低50%オフなので結構お得。

【読んだことのあるおすすめ本】

インターネットや流通網が発達しても、どこに住むかで生活がかなり変わってくる。イノベーションの起こっている「場所」(=都市)にいることの重要性をきちんと説明している本です。当たり前といえば当たり前なんですが、根拠のある主張や議論をするための前提として、押さえておきたいところです。300ページ超えてる本なので Kindle 推奨。

 

データから予測を立てるとはどういうことか、という基本がわかる本です。出版は2013年と少し前ですが、データ予測がより身近になっている今だからこそ押さえておきたい本だと思います。ハードカバーでかなり重いので、 Kindle 推奨。

 

原題「Salt,Sugar,Fat」。現代の食品に塩と砂糖と脂肪がどのように使われているか、その結果現代の食品がひどく食欲を誘発するということ、これらが克明に描かれています。
アメリカ食品市場が舞台ですが、日本もそれほど変わりません。食生活が気になったり、ジャンクな食べ物が好きなかたは、本書を読むとかなりの恐怖体験ができます。(私はしました…)

 

これも「おもしろいけど実例満載で重い」のでkindle推奨です。コンテナがいかに物流にとって大事なのか、そして港湾整備がどれだけ生活にとって重要なのかがわかります。表紙が地味で標題も地味ですがとても面白かった。10年以上前の本ですが、ハードインフラの話なのでそんなに古びていないかと。

 

ここまでの4冊はいずれも「おもしろいけどページ数が多くて重い本」。重い本はやっぱりKindle推奨ですね。

 

北海道電力のブラックアウトがあったので、 一度仕組みをきちんと知りたく買いました(10月後半に読了)。500円程度(セール価格)で専門家が概要を分かりやすく説明してくれる、コストパフォーマンスの高い本です。

 

 

読み応えがあるきちんとした内容ですが、途中で諦めたくならないくらいやさしい説明と文章です。専門家でない読者に配慮しているまさに新書の鑑ですね。
2013年のノーベル賞物理学賞でヒッグス粒子が話題になり、この2冊を買いましたがすごく良かったです。 幻冬舎新書は、原則著者買いするレーベルだと認識しています。

 

 

【今回買った本】

著者買いしました。著者は昆虫学者で、「夏休み子ども科学電話相談」の虫分野担当をしていたり、2018年夏に開催された「昆虫展」(国立科学博物館)の監修もしています。カラー版新書400円って安いですよね。

 

 

 

2018年10月前半の読了本リスト

  • 『「健康食品」ウソ・ホント 「効能・効果」の科学的根拠を検証する』
    高橋久仁子
  • 『子育ての大誤解 重要なのは親じゃない〔新版〕 上・下』
    ジュディス リッチ ハリス
  • 『樹木たちの知られざる生活──森林管理官が聴いた森の声』
    ペーター・ヴォールレーベン
  • 『必要な情報を手に入れるプロのコツ』喜多あおい

内容は面白いし読みやすい本が多かったですね。1冊を除いては…!(後述します)

 

健康食品、買ったことはありますか。

トクホや栄養機能食品、機能性表示食品は、コンビニエンスストアやスーパーで扱われている飲料、食用油などの中にも数多く存在します。
そのため、買ったことがある、そうとはっきり意識せずに買ったことがある人がかなり多いのではないでしょうか。かくいう私自身もトクホ飲料を物珍しさに買った覚えはあります。

トクホや機能性表示食品は、記載に関して国の制度・規制が存在します。
しかしその制度、実態がどれだけ危ういものかを、本書は詳細に描き出しています。

そもそも「機能性表示食品は経済活性化のためにつくられた」ということ自体知らず、結構な驚きでした。

本書後半部分の、トクホや機能性表示食品のパッケージ表示内容と根拠論文をきちんと読み解いていくところなど、メディアリテラシーの授業のお手本のようです。限りなく黒に近いグレーの記載を、根拠論文を取り寄せてきちんと読み解いていく…。

リテラシーの基本ではあるのですが、これだけの手間。この手間を、食品を購入する国民ひとりひとりがかけていくことを想定するのは非現実的です。

そんなリテラシーと手間が求められる表記方法を、国が制度として正式に認めてしまっていいのか。
そんな著者の問いかけが、本書を読む間ぐるぐると頭を回るようでした。

目が覚めるような思いをした著者の指摘をもうひとつ。

それは、「健康食品の表示」問題は、購入してしまう人だけの問題に留まらない、ということです。

「国は、膨大な額になっている医療費の問題を抱えていますが、このような制度(トクホ、栄養機能食品、機能性表示食品)を設けることが、長期的には医療費のさらなる増加をもたらす可能性をはらんでいることに〝気づかないふり〟を決め込むのでしょうか」

この記述を読んだ瞬間に、健康食品の表示制度問題は私にとっても他人事ではないのだ、と思うことができました。
健康とはあくまで個人の目標ではありますが、その健康に至る・維持するための健康保険制度は紛れもなく国家政策です。
そして健康保険制度を支える医療費は、現役世代の保険料だけでなく、税金でも負担がなされています。
つまり、税金を払っている人全員が、健康保険制度の当事者であり、医療費増加問題の当事者であり、ひいては健康食品の表示制度問題の当事者なのです。まだ健康であり、またそういった健康食品を購入しないだろうという自負のある私にしても、それは例外ではないのです。

 

ぜひ本書でトクホ、栄養機能食品、機能性表示食品の「怪しさ」を知ってください。
それは、過度に健康食品を信頼しないことで自分の健康を、ひいては日本の医療制度を少し支えることにもつながるでしょう。

 

子育て神話(子供や親の育て方に大きく影響される)をばっさりと切ってくれる好著です。
確かに「子供が社会的に良くないとされる習慣・性格・行動を取るのは、親の育て方の責任」というのは、当たり前だと捉えられています。
本書の著者はアメリカ在住ですが、日本でもこの「親の育て方」論に対し、あまり反感はないように感じます。

でも本当は、親の育て方が子供に大きく影響するというのは、科学的に検証がされていない「神話」でしかない。
子どもに大きな影響を与えるのは「子ども同士のコミュニティ」つまり「子どもの友達」である。

だから親は、(子どもを大切に育てることは大事ではあるけれど)、子どもの行動・性格のあれこれについて自分に責任があると思って思い悩む必要はない。

簡単にいってしまえば、これが上下巻に渡る本書のコアの主張です。

しかしこの本書の「親が子どもに与える影響は、従来考えられていたよりもずっと小さい」という主張は、子育て神話(子供や親の育て方に大きく影響される)と真っ向からぶつかります。

なぜこのような主張ができるのか。著者がこの主張に至るまでの心理学・教育学は、歴史上どのような論がなされていたのか。

それらの丹念な説明に、本書はかなりの部分を当てているのです。

心理学の歴史的な流れ、子育て神話がいかに心理学的に検証されようとして失敗してきているか、いかにその検証が困難なものであるのか。
そして検証されていない子育て神話が社会に根強く浸透しているかを、本書ではじっくりと感じることができます。

…そうです、「じっくり」感じられるボリュームの本なのです。
欧米系の著者あるあるですが、日本でなら新書1冊にまとめて発行してくれる内容のところ、著者の思いの丈(具体例)や詳細ケースの記載(かなり細かい点の補足)がたくさんくっついていて、きっちり書いてある分、とにかく長いのです。
私は、本書内容の概要に触れている『言ってはいけない』橘玲 をきっかけに本書を知りました。概要を知っている状態で本書を読めたのは幸いなことでした。

本書に直接挑む際は、途中で疲れてしまわないように、まずは概要をつかむつもりで流しつつ読むのがいいかもしれない…とは感じました。

 

本書は、行政官ではなく、民間の森林管理官として活躍する著者による本です。

訳者あとがきによると、日本では自然の原風景といえば田園風景を思い浮かべる人が多いように、ドイツでは自然の原風景といえば深い森林なのだそうです。
そんな「イメージはあるけれども実態はあまり知らない」森林の様々な面を易しく教えてくれるのが、本書です。

著者が語る森林とは、ドイツの森。そのため日本ではあまりなじみのない樹種も良く登場します。

たとえばトウヒ。”いわゆる「クリスマスツリー」型の典型的な針葉樹”(Wikipediaより)とのことですが、日本で樹木といって、真っ先にトウヒの名前が思い浮かぶひとは少ないでしょう。(日本にも分布していますし、写真を見れば見たことあるというかたは多いかも?)

しかし心配は不要です。著者が語る森。その知らない一面や、いかに街路樹が不遇な状況下で生きているかなどは、日本でもほぼ同じ状況と思われます。本書を読んでいて、知らない世界に迷い込んだ感じはしません。知っているようで知らなかった樹木、その奥深さを味わい、心地よい気分になれる1冊です。森を愛するドイツでは本書がベストセラーになったというのも納得です。

 

さっくりと読める文庫で面白かったです。著者の職業はリサーチャー。つまり情報の裏取りを行ったり、情報をネタとして集めてきたりするプロです。
その方法論を紹介しているのが本書です。著者の方法論がアナログにかなり寄っていたのは、(なんとなく)予想していた通りに意外でした。
「ネットの普及が進んでも、情報探しの基本は変わらなかった」と最前線のプロの立場の著者が言い切っています。
アナログ時代に生まれ育ちデジタル時代に移りつつある中を生きてきた私としては、とても感慨深いです。

2018年9月の読了本リスト

『ワークデザイン 行動経済学でジェンダー格差を克服する』
イリス・ボネット
『人工知能と経済の未来』  井上智洋
『予定通り進まないプロジェクトの進め方』 前田考歩、後藤洋平
『地層のきほん』 目代邦康、笹岡美穂
『入門者のExcel VBA』  立山秀利

9月、ちょっと読書をさぼり気味でした。読んだ本のヒット率は高かったんですけどねぇ。

 

解説者買いです。NHK「オイコノミア」にもご出演されていた大竹先生が紹介されていたので購入しました。
やはりこの手の欧米系書籍に違わず厚い本ですが、具体例などがふんだんに盛り込まれているためのページの多さであり、内容自体はとてもわかりやすいです。
「企業のダイバーシティ研修は、効果がないか、逆効果になっている」など、会社員の私からすると、ドキッとするような例がたくさん載っています。
具体的なアドバイスはアメリカの慣行をベースにして語られています。しかし行動経済学の観点からの原理原則がきちんと説明されているので、日本やその他アメリカと異なる慣行の地域でも本書のアドバイスを活用することは十分に可能です。
普段自分が所属している組織の構造に、いかにジェンダー格差が当たり前のように埋め込まれているのか。それに気づく機会が得られるというだけでも、本書を読んだ甲斐が十分にあったと感じます。

 

中島聡さんのメールマガジン『週刊 Life is beautiful』で紹介されており、興味を持ったので購入しました。
人工知能は最近とてもポピュラーな話題で、たくさん本も出ていますが、本書はその中でもはっきりとした特徴を持っています。
著者の専門がマクロ経済学であり「人工知能に少し詳しいマクロ経済学者が、人工知能が経済におよぼすインパクトを語る」ものとなっている、ということです。
前半は人工知能の現状と今後の予測発展の説明、後半はその人工知能の発展に伴う経済・雇用の変化を説明しています。人工知能に詳しい方は前半をある程度飛ばし読みして、後半に早くたどり着いた方が面白いのかもしれません。

確かによくよく考えてみれば、(私のような)エンジニアでない人間にとっては、人工知能そのものよりも、人工知能により経済や社会がどう変わるのか、のほうがよほど興味をひかれる内容です。本書はその中でも、人工知能が発展・普及したら雇用はどうなるのか、その対応として何がありうるのか、を紹介しています。
本書の主張を簡単に言ってしまうと、「2045年頃には汎用人工知能の普及が予測され、それにより雇用率が激減する。対応策としてベーシック・インカムの導入が現実的」というものです。
ベーシック・インカムの必要性をAI普及による雇用の変化の解決案として出してくるのも面白いですが、そこに至るまでの説明が丁寧で納得できるところが本書の面白いところ。新書なので肩ひじ張らずに読めるのもよかったです。

 

ビジネス書らしいタイトルと書影、そして読みやすさの本ですが、予想を上回る面白さでした。
本書の面白い部分は、プロジェクトの進め方として「プ譜(プロジェクト譜面)」を書く、という具体的な方法を提案している点です。
詳細は本書で見てほしいのですが、かなり実用的であります。
また、本書が対象としているプロジェクトは、システム開発に限りません。

”「未知」を「既知」に変換していく行為。 ノウハウや知識の不足。 有限なお金と時間。
この三要素を満たしていれば、それはすなわちプロジェクトなのであり、
その当事者であるあなたは、望むと望まざるとにかかわらず、プロジェクトマネージャなのです”

本書のこの定義に従うと、「プロジェクト」として認識されるものはかなり広がるはず。私はさっそく仕事のプロジェクトで「プ譜」を書いてみました。今後どう使っていけるのかが楽しみです。

 

NHK「ブラタモリ」が好きで結構観ているのですが、地層に関してはあまり知識がないため、ちょっと買ってみました。カラー見開きで見やすい本です。読み通しはしたものの、全部頭に入ったわけでもないので、今後辞書的にときどき読み返していきたいですね。

 

仕事でVBAを使いたくなったので、自学自習のために購入しました。
実際にVBAを書きながら動かしていけるというのと、自分で調べて進んでいくためのまさに「初めての人にベスト」になるように丁寧に書かれているので、本書を最初に手に取れたのはひとまず良かったと思います。今後続編にあたる『脱初心者のExcel VBA~』などを読んでいけるかは、自分のVBA習熟度次第ですね!

2018年8月後半の読了本リスト

8月は小説強化月間でした。前半でけっこう読み応えのずっしりした本が多かった反動です。

『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』 川上和人
『大量生産品のデザイン論』  佐藤卓
『キミのお金はどこに消えるのか』 井上純一
『アルスラーン戦記1 王都炎上』 田中芳樹
『アルスラーン戦記2 王子二人』 田中芳樹
『アルスラーン戦記3 落日悲歌』 田中芳樹
『アルスラーン戦記4 汗血公路』 田中芳樹
『アルスラーン戦記5 征馬孤影』 田中芳樹
『アルスラーン戦記6 風塵乱舞』 田中芳樹
『アルスラーン戦記7 王都奪還』 田中芳樹

 

鳥類学者による鳥類学者の日常をつづったエッセイ集。一時期結構売れていたようで書名(書影)を見たことはありました。
今回読んだきっかけは、NHKラジオの「夏休みこども科学電話相談」ですね。少し前から著者の川上先生は「鳥」の担当として出演しております。「どうもー、川上です」という明るい名乗りと子供をほめながら説明していくスタイルでなかなかに楽しいですよ。
今年もラジオ出演されていたので(8月にはNHK教育「ヘウレーカ!」にも出演されていましたね)、本のことを思い出して読んだ次第です。本書の文体を見て、しみじみとラジオの話し方はもともとの著者のキャラクターに近いのだと感じました。
小笠原諸島でのフィールドワークの苦労など、珍しい体験(苦労話)もたくさんありますが、やはり面白かったのは、鳥類学者がする妄想のお話ですね。荒唐無稽なことを、知識で裏打ちして考えると楽しいのだ、という学問の楽しさをいろいろ見せてくれる本でした。

 

大量生産商品(「おいしい牛乳」、「クールミントガム」など)のパッケージを数多く手がけてきた、著名なデザイナーの著者が、自らのデザイン論を披露した本です。

本書の序盤で、デザイナーの世代論が説明されていて、そこがなかなか面白かったです。
著者が多く手がけてきた、生産商品のパッケージデザインという仕事は、著者よりも上の世代のデザイナーとは一線を画す仕事の仕方だった。日常の身の回り品(大量生産品)が綿密ににデザインされるということが、日本においてデザインという分野が広く浸透してきたことのひとつの現れだと、本書内では説明されています。
確かに今でこそ、デザイナーという仕事は比較的一般的なものとして浸透していると思います。でも1990年代くらいまでは、デザインといえばカリスマ的なデザイナーが一部のオシャレな製品に施す、対象者の限られたものもの、というイメージがありました。そこからの変化を生んだ立役者のひとりが著者だと思うと、なかなか興味深いですよね。

 

同著者の『中国嫁日記』がけっこう面白いので、本書も買ってみました。
マンガで、とてもわかりやすく、マクロ経済学と金融・財政政策の全体感がつかみやすい、初心者に非常に優しい1冊です。
きちんと情報を取捨選択したうえで、素朴だけど本質を突いた質問をしてくるユエさん(表紙に描かれている著者の妻、経済には全く知識なし)に説明をする、という形を取っています。
キャラクターがきちんと立った上で、読んだひとが納得できるよう、丁寧に書かれている本です。
経済理論と金融・財政政策のどれが「正しい」のかには諸説あります。もちろん本書に記載されている内容も、議論がないわけではないでしょう。それでも本書は、経済誌なり新聞なり他の書籍に手を伸ばせるようになるための、最初の1歩であったり、自分の持っている知識の再確認にとても役に立つと思います。

 

 

 

 

 

 

 

本シリーズ、実は荒川弘さんのコミックスから入りました。光文社版だと挿絵の雰囲気がコミックスとかなり似ているので違和感なく読めると思います。角川文庫のオリジナルは天野喜孝さん画なのでそれはそれで素敵なんですがかなり西洋ファンタジーよりの絵なのです。物語がペルシアをモデルにしているので、コミックス・光文社版のがイメージは近いかと思われます。
1冊が薄いように見えて(200ページいかないくらいです)、かなり読み応えがあって楽しかったです。群像劇が魅力的で安心安定したシリーズでした。
逆説的に荒川弘コミックス版がとても丁寧に作られていたこともわかりました。コミックスも今後ますます楽しみです。

2018年8月前半の読了本リスト

8月前半は、読みやすいけどずっしり来る、けっこうな読み応えの本が続きました。

『医療現場の行動経済学』  大竹文雄、平井啓
『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』 スコット・ギャロウェイ
『失敗の科学』 マシュー・サイド
『みんなの家事日記』 みんなの日記編集部
『働く女子のキャリア格差』 国保祥子
『ロード・エルメロイII世の事件簿 8 case.冠位決議(上) 』 三田誠

 

著者買いかつジャンル買いの一冊。行動経済学、結構好きなんです。(カーネマン&トヴェルルスキー、リチャード・セイラーあたりの第一世代が書いた、一般向けの本ではまりました)。
さて、人間の意思決定が絡むことであればなんであれ応用の可能性がある行動経済学ですが、その知見を日本での医療分野でどう応用できるか、ということが語られています。
医療分野という、決定が人の生命に大きく関わり、かつ従事者(医者)が特別視される分野。本書のタイトルですでに、非常に大きな影響があることを予想しましたが、その通りでした。

医学シンポジウムでの講演内容が主になっているため、医療分野の専門用語も多く飛び交いますが、きちんと説明をしてくれているため、迷子になることはありません。
むしろ、医療の分野で交わされている議論の生々しさのようなものが迫ってくる感じがしました。いろいろと例はあるのですが、ひとつ挙げますと、子宮頸がんのHPVワクチンの接種率向上(「一万個の子宮」などで最近大きく取り扱われるようにもなりました)のための施策が語られていますが、その前提知識(医師にとっては確認)として語られている、罹患時の経過やリスクが統計的に語られる部分。そこで語られる事実(症例を統計的に捉えたもの)のリスクの高さに背筋が寒くなる思いがしました。医師は知っているけれども、社会全体には必ずしも共有されていない事実なので(それこそ、「一万個の子宮」などでは記載されているのでしょうが未読なので…)

さて、とはいえ主題は行動経済学を医療現場でどう活用するか。行動経済学についてもきちんと解説を入れて(実際に医師向けの内容なので、行動経済学に関する知識が全くなくても問題ないように解説が入っています)、さまざまなケースが語られます。

本書は、行動経済学が実際に世の中にどう応用されて役に立つのか、という問いに対し、日本にいる人にはすごく身近に感じられる実例を提供しています。
医療現場とはすなわち、病院に行ったときの患者本人(だけでなく家族なども含む)体験の現場です。ですから、本書で取り上げられているケースは、医師だけではなく患者の立場に立つ私たちに取っても、想像がつきやすいのでしょう。
つまり、医師だけではなく、それ以外の圧倒的多数である、いつか自分や家族が病気や怪我になりそして死ぬ普通のひとである私たちにとっても、本書の内容は大変示唆に富む重要なものです。
いつか私たちは病気か怪我でそのほか何らかの要因で、自分やあるいは近しい人が病院で死ぬのがほとんどなのですから。その際に、起こりうるすれ違いを少しでも小さくするためにも、つまり自分自身のためにも、ぜひ本書をお勧めします。

 

日経でも取り上げられていましたし、著者のTEDを見て面白そうだなと思ったので購入。
アメリカ人著者の書くこの手の本の例に漏れず、やはり本書もかなり長いので、なるべく短い時間でまず内容をつかんでしまいたい方にはTED動画もおすすめです(動画も20分くらいと長めなんですが…)
四騎士とは、Google、amazon、Facebook、Appleの4社のこと。この4社が他の会社と比べていかに異なっているのか、この4社に今の世界が作り替えられているのかが語られます。
四騎士はそれぞれ、脳、腕、心、性器という人体の要所(心は臓器ではありませんが、人間には欠かせないものとして)を押さえている。それが、今までの同業他社とは異なるストーリーのもとに、どのようになされており、どのような成果を挙げ、同時にどのようなマイナス面を止まっているのか。それが十二分に語られます。
著者の語る内容は厳しいまでの事実ですが、同時にその語り口は皮肉たっぷりで痛快ささえ覚えるので、読後は重たくありません。(でも事実としては重いのですが…)
「Googleは現代社会における神である。私たちは皆、視線をスマートフォンに落とし下を向いて祈りを捧げ、自分たちの問いかけに答えを得ている」 などと語られるとその通り!という感覚と皮肉に思わずにやにやしてしまいました。

 

私たちは失敗をどうとらえればよいのか?失敗から学ぶためには、どんな手法をとるべきなのか。それをまさに科学的に考えようとしたのが本書です。
本書では、失敗から学習するシステムのできあがっている組織の代表として航空業界を、失敗から学習できないシステムの内包された組織として医療業界を挙げています。
「医療現場の行動経済学」と併せて、医療の技術が大変な進歩を遂げた現代では、今後改善が求められる(そして可能な)のは、人間のオペレーションなのではないかと思いました。

個人単位でミスを減らすにはどうするればいいか工夫するのもひとつの知恵。
一方で組織(多人数)で失敗をどうとらえるかというのは、つまり、社会全体で失敗をどう役立てていけばいいのか、ということ。失敗という資源をうまく生かす方法を考えると同時に、組織内の失敗の責任を個人のみに帰さないよう考えることが、人道的にではなく功利的にもいかに大切なのか。それが本書の様々な例で実感されます。

 

『じっくり読みこんでいただくのはもちろん、パラパラめくって、自分に合いそうな
やり方だけをつまみ食いするのもおすすめします。家事のモチベーションアップと
マンネリ打開に効く一冊です。』という説明書き通り。
見開き2ページ~4ページごとにひとり、各家事のポイントなどを紹介しています。インスタグラムにインタビューと説明をつけたもの、いろんなひとの紹介ブログ、雑誌の特集号をもっと煮詰めた感じ。私にはちょっと合いませんでしたが、このスタイルが好きな方にはきっとたまらないんだと思います。

 

今現在、女性が働くこと、働きながら育児をすると何が起こるのか。そこには、意図せぬすれ違いがあり、様々な不利益もあり、それらをなんとかしようとしている著者のような人たちがいる。まさに現状を知らしめる本でした。
もちろん働く女性といっても、個々人の事情は様々です。でも全体の傾向として、働く女性だけでなく、女性と一緒に働いている男性にも、就労していない女性にも、現状をわかってもらうものとして意義があると思います。

 

はい、シリーズ新刊が出ると買ってしまうシリーズです。
著者がひとまず本書とその続きで一段落させる、と語っている通り、大団円に向けて今までのさまざまな出来事や登場人物がぎゅーっと詰まってきて面白くないわけがないです。
本シリーズお好きな方は、ぜひぜひ上下巻出揃うなんてもったいないことはせず、早めに手に取って本巻の最後を読んでいただき、次巻が発売されるまでその内容に思いをはせると楽しいですよ、きっと。
あと、本書のcase名、冠位決議にはふりがなできちんと「グランドオーダー」と記載されております。なんですかねぇ、なにか携帯ゲームの方とつなげてきたりするんでしょうか(やってないんですが)実に意味深な感じもしつつ、なにもない可能性もあって楽しみです。

2018年7月前半の読了本リスト

7月前半は、割と多様性に富んだラインナップでございました。

『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』 橘玲
『アウトライン・プロセッシングLIFE』 Tak.
『血界戦線 ペーパームーン』  秋田禎信
『世界史を大きく動かした植物』 稲垣栄洋
『宝石 欲望と錯覚の世界史』  エイジャー・レイデン

 

著者買いの1冊。タイトルはマーケティング戦略(と朝日新聞出版の自戒?)も含めて、センセーショナルにつけられておりますが、いつもの著者の本と同じく、とても明確で冷静な論理でつづられた本です。
サブタイトルまでが本書の内容を表しています。日本で「朝日ぎらい」という現象が起こっている理由を、日本におけるリベラルの歴史をひもとき位置づけを明らかにしています。それから、欧米でリベラルがグローバリズムと結びついてどのように進化しているかを説明しています。

正直言って政治にはあまり明るくなく、右派・左派の区別がよくわかっておりませんでした。誰がそう言われているのかは、新聞ほかメディアでわかるものの、どの特徴を捉えて右・左、リベラルと呼ばれているのか、支持者層はどのような層なのかがよくわからなかったのです。本書は、私のような「よくわかっていない」者に対して、論理的に説明をしてくれます。そしてさらに「ネット右翼」などまさに今台頭してきている層とそれらの結びつきについてもわかりやすく説明をしてくれました。
ただ、本書が本当に正しいのかについては、他著者などを見て自分で検証していかなければならないところなのでしょうが…。ひとまずは「なんか明確な説明もないし、よくわからない」から「本書の論理だとこうなっているけど、本当にそうなのかな」というところまではレベルアップできました。

 

アウトライナーの第一人者である著者の、2冊目のアウトライナー本。
アウトライナーを生活に役立てていく具体例とか、著者はなにをどう考え、どんなことについてアウトライナーを使っているのかという話です。技術論の範疇には収まらない、だけれども実際にアウトライナーを使い出すと気になることについて、第一人者である著者はどうしているのかをちょっとお話をお伺いしてきた、そんな感じの読了感でした。
すごく「それそれ!」と思ったのが、

ーせっかく検討したカテゴリーを消してしまうのは、「考える」アウトラインと「使う」アウトラインは違うからです。 実際の生活の中でDOを整理するときに、適切なカテゴリーを探すことが負担になることが経験的にわかっているからです。階層はできるだけ深くしない方が自由度が上がりますー

というところです。頭出しをして考える時点では、なるべく細かく区分けをしておくと、漏れダブりのないMECEな考えに近づけるんですが、実際になにかやる段になると、階層が深すぎると逆にうっとおしく感じる。それは私にも覚えがあったのでちょっと興奮しました。

 

コミックスの血界戦線を読んでいるので、その流れで購入しました。小説版著者の秋田禎信さんの著作は、とても昔に「魔術師オーフェン」シリーズを読んで以来でした。
主人公は表紙の通りザップ。コミックスのキャラクターとか雰囲気が見事に小説になっていますので、コミックスが好きな方にはおすすめですねー。

 

コメ、コムギ、トウモロコシ、ジャガイモ、トマト…。日本でならほとんどの人が知っているし普段なにげなく食べている植物は、どんな歴史を持っているのか。人間がよく知っており食べている植物は、人類史に大きく影響を与えてきた植物でもあった。
そんな壮大な植物たちのエピソードを、平易で軽快につづっている本です。時期が時期だけに夏休みに1冊おすすめしたくなるような本。個人的には、アメリカの食事になにかというとポテトが出てくる理由がわかったような気がしました(少し閉口したので…)。
人間は穀物(小麦)によってうまく自分たちの種を繁栄させてきたと思っているけれど、それは花粉を運ばされているミツバチと何が違うのだろうか。農業を始めたことで、人間は農業をやめて狩猟採集生活に戻ることができなくなってしまった。このあたりは『サピエンス全史』でもありましたね。

 

宝石がいかに欲望と錯覚によって価値を付与されてきたかがわかる本です。
ダイヤモンド、エメラルド、真珠…様々な宝石を人類はどこで見つけ、どのように収集し、どのように価値があると吹聴し、価値あるものとして見せびらかしたのか。
宝石の価値とは欲望と錯覚であるという冷静な姿勢をもとに、歴史をひもとき、欲望と錯覚部分を明らかにしていきます。宝石の歴史がつづられているので面白かったですね。
歴史上、希少で貴重だった宝石が従来よりもより多く手に入るようになる(新しい鉱山が見つかる、養殖が可能になる)際に、いかにその宝石の価値を落とさないか、ということに宝石を売る側は労力を注ぎ込んだか、そしてデビアスやミキモトは見事にそれに成功してきたかがわかる、皮肉たっぷりの本でもあります。